一章 🏥 1 🔪🔪🔪

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「そんなに首振ると首もげちゃうよ?」 「煩い、近付くな、まじキモイ!まじキモイ!!!」 「そこまで全力で拒否されるとさすがに傷つくなぁ」 再び飲み込まれた殺意のままに、頭に浮かんでくる限りの暴言を吐くけれど――感情的になった人間には隙が生まれやすい。 気付けば両手とも頭の上で片手で一括りに固定されており、自分の短気さを呪った。 奴の片手を自由にしてしまった!! 耳から下りて来た顔は首元に再び埋められ、側頭部にゴリッとすり寄られる。 耳から首にかけて触れる柔らかい藍色の髪が、くすぐったい。 少しその行動に『可愛いとこもあるんだよなぁ……』なんて意識がそちらに向くが、また首を振って思考を修正する。 この男は時々猫のような、甘えたような行為を含めてくることがあるのだ。 それが私にとってはとんでもなく厄介であり、その間は行為が先に進まない安心感もある。 ただ甘えてくるだけなら……まだマシ、というだけ。 数十秒経つと、再びゴリッゴリッと擦り寄られて、若干側頭部が痛い。 脳が揺れる。 この男が何を考えているのか……この家に来て二ヶ月が経った今でも掴み切れない。 私はこの男を殺したい。 私の大事な、本当に替えの利かない大事なものを殺して、壊した、その――責任者であると言い張るこの男に、恨み辛みの全てを、この湧き出す復讐心を全て、ぶつけたいのだ。 今のところ、傷一つ付けられたこともないけれど。 「はぁ……ここ安心する」 狭いところに入りたがる猫か。 首に埋まっているその後頭部を視界に入れつつ、脳内でつっこむ。 「殺そうとした相手に言う言葉じゃねぇだろ」 「いいの。殺せないから。君はちょっと手癖の悪い小動物だと思ってるから」 「ネコ科が何言ってんの?」 「ネコ科……?」 はっ……思わず猫のようだと思っていた気持ちが漏れてしまっていた。 そんなことより今がチャンスだと思考を巡らせる。 捕らわれた腕は、コイツがこんっっっなに安心しているような声を出していようが緩むことなく、若干痺れを感じ始めている。 その掴んだ腕と頭で囲われた隙間に顔を突っ込んでるもんだから、本当に猫だ。 ネコ科は狭いものの中や丸いものの中に入りたがると聞いたことがある。 こんな中に顔を突っ込まないでほしいし、地味に続けられているゴリッゴリッと擦り寄ってくるのもいい加減にしてくれないと、そのうち禿げる。 その擦り寄ってくる頭を止めたくて、先程よりは余裕の出てきた頭で話の続きを促す。 「しょ、小動物って、例えば?」 時間を稼いで、その間にもどうやってこの体勢から逃れるか、思考を巡らせるしかない。 「んー……ミーアキャットとか?」 「……は?」
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