一章 🏥 1 🔪🔪🔪

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「君は考えるてることをストレートに実行してくるから、行動が単調なんだよ。もっと小賢しくないと俺は殺せないよ」 ようやく頭を上げた男が、またふわりと微笑みを浮かべて私に笑いかける。 ぴりぴりを超えて手の感覚がそろそろなくなってきたので、いい加減離してほしいところだ。 「単調って何?」 「ほとんど衝動で動いてるからそうなるんだよ、可愛らしいから許せちゃうけどね」 「殺そうとしてる相手を許す意味がわからない」 「うん、君に殺せると思ってないからね」 そう言い切られてしまうと、こちらも息を飲むしかない。 いちいち腹立つ言い方だな。 実際この二ヶ月殺そうと試してきた中で、一度でも惜しいと感じた方法も無いまま、本当にこの男を殺せるのか?と、この選択は合っているのか、間違っているのか?と勢いが衰えてきているようにも感じる。 本当に最初の頃の殺人衝動なんて、今では遠い昔のことのようだ。 そんなことより、この男が……殺意に対して怯まず、むしろ慣れているかのようにアドバイスまでかましてくることに対して、最近の思考回路は専らそちらに奪われている。 再び思考がそちらに奪われている中、ピリリとした衝撃が腕から脳に響き、両肩がビクリと大きく跳ねた。 「どうやら限界が来たみたいだね」 「動くな!!離せ!!」 「だいぶ無茶言ってること自覚してる?」 「……っ!!」 その……痺れが極限状態になって異常に敏感になった手首に、あろうことがギュッと男が一瞬力を込める。 「~~~~!!!!!!」 ギュッと目を強く瞑り、涙を浮かべて耐える私に満足そうにフッと笑うのを感じ、ようやくその手が離れる。 離れる時の衝撃ももちろん響くので、その痛みに首を振ったり足を叩きつけたりして耐えるけれど、どうしようもなく痛い。 すると、ふと顔の近くに気配を感じ、目を瞑って真っ暗闇の視界の中で頬に触れる柔らかい感触に、脚の動きもピタリと止まる。 今度は目元に動いたそれが、涙を舐め――ここで頭突きをかましたいところだけど、その衝撃が腕に伝わってしまうことを考えると動くことが出来ず、されるがままだ。 それをいいことに今度は額に、鼻の頭に、口の端にそれは落ちてきて、いい加減耐えられず瞼を開く。 「変態」 「ん?」 そんな、虫も殺さなそうな甘ったるい笑みを顔に張り付ける男は、次に空いた両手で頬を包んでくる。 まだ痺れの残る体では反撃の体勢を整えることさえ叶わず、されるがままでしかいられない。
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