一章 🏥 1 🔪🔪🔪

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「ミラーリング効果って、知ってる?」 「……は?」 突然話題がギュインと90度反れ、目を丸くして返すことしかできなかった。 なに?ミラー?鏡??と眉を顰めて思考を巡らせていると、男が再び口を開くのが視界に映る。 「君が早く俺色に染まってくれることを願うよ」 意味の解らない……解りたくもないその男の発言からは、本当に何を考えているのかミリ……いやミクロも理解できず。 そもそもその鏡の効果の意味が解らんのだ、なに俺色って?キモ。 「意味が解らないけど却下する」 「長期戦は覚悟してるから、大丈夫」 何が大丈夫というのか……。 少なくとも私は何も大丈夫ではない。 けれど、何も大丈夫ではないけれど……この男は常に大丈夫大丈夫と緩やかに振る舞う。 どんなにこちらの殺意が剥き出しであろうが、どんなに暴言を浴びせようが、どんなに拒絶を見せようが、その全てをこの男は受け入れてしまうのだ。 そんな狂気全開の殺意すら受け入れられてしまったら、この心の中にある鋭い刃を柔らかく包まれて引き抜かれてしまったら……戸惑いしか残らない。 いつも最終的にはそんな感じで、こちらが落ち着いてしまうのだ。 それでも何度も何度も、私は彼に襲い掛かる。 それが、私がここにいる目的だから。 再び起き上がった彼が、私の腕をツンツンツンツン、つつく。 握り締めていた指を解くように両手が絡まり、私を囲うように耳元に置かれる。 拘束する気なんてないような、ゆるい力で絡め取られる。 「もう、腕の痺れ取れたみたいだけど」 「……そうみたいね」 「落ち着いた?」 「……チッ」 「女の子の舌打ちも嫌いじゃないよ」 「嫌ってくれて結構なんだけど」 もう、色んな意味で落ち着いてしまった。 痺れが酷くて殺意どころじゃなくなって、その痺れが消えたからといってあの衝動感は戻ってくるわけでもなくて。 ひと通り騒いだ疲れもあり、こうして手をにぎにぎと柔らかく握り締め続けている彼にされるがままの状態である。 酷く疲れた、燃え尽きてしまえばもう今日はこの男を殺すことを諦めるしかない。 また後日でいい、今日は疲れた──。 視界の端でキラリと刃が朝日を反射する。 その茜色の光が、印象的に目の奥に記憶された。 男が「喉乾いたなぁ」なんて言いながら立ち上がり、その刃物を拾い上げる。 あ……私の持ってきた凶器が……と思ったけれど、殺意が引いてしまった今、もうそれは必要のないものになっていた。
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