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War3:Encounter
一夜明けてさっきまで事務所で仕事していた僕は何故かタクシーに乗っていた。
『あっ、ここで大丈夫です。えっと、、、イエロースタジオの6階は……あっ、あっちか!』
タクシーで料金を支払い降りてスマホを見る。地図に表示された目的地はどうやらこのビルの裏らしい。外気の冷たさに白い息を上げながら走った。
と言うのも戸川から"今からイエロースタジオに来てくれ"とだけ電話言われ、何があるかも知らないまま来たというわけだ。
エレベーターで6階へ上がると広いスタジオにたくさんのスタッフとカメラマン。そしてセットが組まれていて入った瞬間すぐ何かの撮影だと分かった。
「千遥くん。こっち!」
声の方を見ると戸川さんが手招きしている。小走りで近づくと隣に僕と同じ年くらいの小柄で長い髪を一つに束ねた女性が立っていた。
「いきなり呼び出してごめんね。けど撮影に立ち会ってほしかったんだよね!顔合わせもしたいし」
『あっ、いえ全然!……顔合わせですか?』
すると隣の女性が軽い会釈をしてきた。
「あっ私、日高那奈です。DeeperZのマネージャーをやる事になりました。よろしくお願いします!」
なるほどね、昨日のボーイズグループの件か。
ってことはここはそのグループの撮影があって呼ばれたわけね、、大体の事は把握できた。
『初めまして。大庭千遥です。こちらこそよろしくお願いします!』
「千遥くんはアイドルには詳しいから分からない事あればたくさん聞いていいから!なっ!」
肩にポンっと手を置いて千遥の顔を覗きこむ戸川。
『あぁ……まぁ、、はい』
僕は戸川さんに目で合図をした。僕がアイドルをやっていた事実は事務所内でも誰も知らない。
知っているのは戸川さんだけで、誰にも言わない約束になっている。今にもうっかり言い出しそうでハラハラしたがもうそんな日々を8年過ごしている。喜ぶべきか複雑なところだが気付かれた事は一度もない。
「そうなんですか!?心強いですね」
どうやらまだアイドルのマネージメントをした事がない彼女のサポート役も頼まれたみたいだ。
僕だってアイドルを担当するは初めてなんだから勘弁して欲しいが、そんなまっすぐな目で見つめられたら引き受けるしかない。
『それで……これから彼らの撮影ですか?』
「そうだ。アー写撮りだよ」
アー写とはアーティスト写真。いわゆる宣材写真だ。これからデビューする彼らにとっては一般の人の目に触れる初めの印象になる、とても大切な撮影だろう。
「もうすぐ準備も終わるはずだけど。おっ、来た!来た!」
奥の扉が開いた。白と黒の衣装に身を包んで出てきたのは6人の少年たち、、いやアイドル達だ。こちらに向かって歩いてくる。
僕達の目の前で立ち止まると横一列に並んで6人が声を揃えた。
《お疲れ様です!!》
野球部並みのスタジオに響く声と息の合った挨拶をされて少しびっくりした。キラキラしているのは衣装だけではなく、まだ幼さも残しながらも凛としていて、すでにこの業界で生き抜いていく覚悟も見える。
「戸川さん来てくれたんですか!?」
「うん。撮影風景を見ておきたいのと紹介した人いてね。それにしても衣装よく似合ってるよ、みんな!」
みんな嬉しそうにしている。初々しい彼らを見ているとあの頃を思い出した。今のこの子達と同じ歳だったあの頃を。
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