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第二章
高校3年の夏の悲劇から、6年が経った。
正樹は、両親の会社を継ぐために経営学と、福祉を大学で4年間学んだ。
両親の会社は、福祉施設を経営していた。
大学を卒業して、その施設に就職し、1年現場を経験した後所長に就任した。これも両親の意向だ。
現場の人間からしたら、こんな若造がいきなり所長になるのだから面白くないだろう。
皆表面では、新所長の正樹をたててくれてはいるものの、影ではそれはそれは非情な悪口を叩かれていた。
その現場をひっそりと聞いてしまった。
本当に情けないな。
正樹はそんな事を思いなが、事務作業をしていた。
月末は利用者の利用実績や請求業務、それに各種手続きが雪崩のように押し寄せてくるので、一日中デスクワークするのが常である。今日はその月末。
本来なら事務員に振り分ける仕事なのだが、先日いきなり退職届を郵送で送ってくると、そこから音信不通になってしまった。
だから、そのしわ寄せが自分に降り掛かって来ているわけで。
5年程務めてくれていて、正樹にも良くしてくれた数少ない職員がいきなり辞めたので、ショックだった。彼女に一体何があったのか。
そんな事が頭をよぎっていた時だった。
「所長!」
正樹は書類から目を話さず、返事をした。
「何ですか?池脇さん?」
「あきちゃんがいきなり辞めた理由分かりましたよ」
正樹は、怪訝そうに書類から目を離し池脇を見た。
池脇美嘉35歳、噂好きの看護師で、施設の中の出来事は全て把握しているんじゃないかというくらい情報通である。おしゃべり好きな彼女は、明るく仕事は完璧にこなすので、利用者家族からの信頼も厚い。
実際、正樹もその彼女の働き振りは尊敬している。また裏表の無い性格だから、先日辞めた事務員以外に池脇が心を許して話せる職員の一人だ。
「あきちゃん!田内君に見事に食べられちゃって!あきちゃんが本気になりかけた時に田内君に捨てられたみたいよ!ポイッて。それがショックで一緒に働けないって、辞めたみたいよ」
「はぁ〜!田内、、、またやってくれましたね」
正樹は、大きなため息をついて、頭を抱えた。
田内秋彦25歳。介護士。身長185cmで手足も長くて小顔でしかもイケメンだ。それに、性格も人当たりがよく温厚で、職員からも利用者とその家族からも絶大の人気のある人物である。
が、一つだけ問題がある。見た目に反して、肉食で気に入った女の子にはすぐ手を出してしまう。そして飽きたらあっさりと捨てるのだ。
その被害者は軽く2桁超えている。入社5年目にして、この数はなかなか無いだろう。
一度腹を割って話そうとしたら、しくしく泣き始めて、反省している、でも遊びじゃなく、本気だったと言っていた。 悪気が全く無いらしい。
本当に、モデルや俳優になれるレベルの人間が何故にうちの施設で働いているのか謎すぎる。
「池脇さん、この事は他言無用ですよ?」
「わかってますよ!でも、結構噂に」
「池脇さん!そろそろ利用者さんの医療ケアの時間じゃありませんか?」
「あらやだ!今行きまーす」
池脇は、笑いながら事務所を出ていった。
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