第一章

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第一章

「阿部光希君が亡くなりました。死因は自殺だそうです」 その知らせを受けたのは、あの出来事から7日後の事だった。 あの日から光希は学校を休んでいた。 担任には、家族から風邪をこじらせているという連絡しか受けていない様子だった。 無理も無い、あの雨の中で二人はーーー。 正樹は、心配ではあったものの、光希を見舞う事が出来なかった。 自分達は同じ想いを持ちながら、でも正樹は家族や周りの人間からの体裁を優先に光希を突き放した。 光希はこれからも親友でいようと言ってくれたけれど、それにはある程度時間をかける必要があると考えていた。 適度な距離を保ちながら、想いを断ち切り、改めて親友の立ち位置を作り上げるしか方法がないと思っていたからだ。自分勝手だと思われるかもしれないが、光希はきっとそれを分かってくれるはずだ。 そういう、人の気持ちを繊細に汲み取れる力を持っていた。そこに激しく惹かれていたのだがーーー。正樹は苦笑しながら、未練の気持ちを断ち切れずにいる自分に情けなさを感じていた。 いつも、感情を表さない、冷徹無慈悲な男性担任、、、そう誰もが思っていたが、今は声が震えて涙ぐんでいた。 震えた声が更にクラス全体に響く。 「お通夜とお葬式は既に身内のみで執り行われたそうです。御家族の希望で誰にも会いたくないので、家に来る事はしないで欲しいとの事です。以上、ホームルームを終わります」 涙を拭い、担任は教室を出ていった。 クラスは、動揺と悲しみに包まれていた。 「自殺ってまじかよ」 ヒソヒソと話す声や、信じられないと泣き出すクラスメイトもいた。 「光希君!何で!信じられないよ」 そう泣き叫び、教室から飛び出す女の子に、慌てて友人らが追いかけていく。 「あゆみ!待って!」 正樹はその様子をぼんやり、その同級生を見ていた。 あゆみは、容姿端麗で頭も良く人望に厚い女の子だ。そして、光希とよく連むというか、あゆみが光希に絡んでいたように記憶している。光希は特に嫌な素振りを見せなかったので、二人は付き合っているのではないかと噂されるほどだった。 教室でひとしきり話していた生徒達も、帰り支度をし、重い足取りで教室を出ていく。 正樹は、放心状態のまま、教室を出ようとした時だった。 「正樹!」 そう光希に呼ばれた気がして、後ろに振り向き光希の席を見る。 光希が眩しいくらいの笑顔で、正樹に手を振っている姿がそこにあった。 (やっぱり光希は死んでなんかいなかった!) 正樹は、駆け寄ろうとした時だった。 光希の姿が霧がかって、消えた。 まぼろしだったのかーーー そう思った時、世界が歪み、その場に立っている事ができなくなった。 正樹はその場に崩れるように意識を失い倒れた。
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