第一章

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目を開くと、ぼんやりと白い天井が見えてきた。 「大丈夫ですか?」 そう声を掛けられたので、ゆっくりと声がした方に顔を向けた。そこには、心配そうな表情をした担任の原田吉行が椅子に座り、正樹の様子を伺っている。 原田は、自分の手を正樹の額にかざす。 「熱は無いようですね。突然教室で倒れたのを覚えていますか?」 正樹は、静かに頷く。 「養護教諭の浅野先生は貧血だろうと仰っていた。ただ、体調が戻らないようなら、病院に行くようにとの事です。」 正樹はゆっくり起き上がる。 「ご心配をおかけしました。もう大丈夫ーー」 「大丈夫じゃないでしょう?君は阿部君と親友だったじゃないか。その親友が突然自殺したんだ。だからショックで倒れた。違うかい?」 正樹は、驚いたように原田を見る。 この担任は、普段感情を表に出さず、冷徹で生徒にとんと興味がない教師だと思っていた。だから、光希の訃報をクラスの生徒達に伝える時涙ぐみ震えていたのを見たのも驚きだったし、それに正樹と光希が親友だと言う事を把握している事にも更に驚いた。 そんな考えを頭で巡らせているのだろうと悟った原田は、苦笑する。 「私は昔から人付き合いが苦手でね。どうしても人と距離を置いてしまうんだ。」 「じゃあ、なんで教師になったんですか?」 「1番苦手としている事を克服する為ですよ。本当は人が好きで、もっと関わっていきたいのに。その為に教師になったのに未だに克服できずにいる。情けないですね」 正樹は、確かにと苦笑した。 その後しばらく沈黙が続いた。 正樹は、ただ俯く事しかできずにいた。 「これはー」 普段では信じられない程の穏やかな声で原田がその沈黙を破る。 「阿部君のご両親から預かった日記です。阿部君は中学生の頃から毎日日記をつけていたようです。これを君に渡して欲しいとの事で預かってきました。ただ、これはある意味遺書になりますから、君の負担になるものかもしれない。だから、ご両親は私にもこの日記を読んでほしいと言われました。それから、君に渡すかどうか判断して下さいと。」 原田は、そう言いながら、1冊の日記帳を正樹に渡した。 そして、正樹の両手を強く握りしめる。 「読みなさい。読んだ方がいい」 原田は、涙ぐみながら、正樹を真っ直ぐ見つめる。 正樹は、分かりましたと一言言って、その日記を大事に胸に抱えて、保健室を出て行った。 正樹を見送って、原田はスーツの内ポケットから一通の手紙を取り出す。そこには、原田宛に書かれた光希からの最期の手紙だった。 光希とは実は密かにこういった手紙のやり取りをしていた。原田の本当の姿を光希は見抜いてくれ、そして慕ってくれていた。 実は正樹の事も相談に乗っていたのだ。 「これが君の望みなんだね、、、光希君」 原田はその手紙を大事に胸に抱きしめながら、肩を震わせ大粒の涙を流したのだった。
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