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序章
激しい雨の音が聞こえる。
空が崩れ落ち、全ての音をかき消そうとしている。
学校の屋上で、雨に打たれながら、二人の男子生徒が強く抱きしめ合いながら、激しく口付けをしていた。
お互い、雷に打たれたように身体中電流が走り、感じた事の無い情熱をぶつけ合うように、舌を絡ませていく。
自分は今、何をやっているのだろう。
ダメだと思っていても、この熱がおさまらない。それどころか、もっとこの熱を感じたい。もっと、溶かして欲しい。
逞しく鍛えられた身体いっぱいに、包み込まれながら、正樹は密かに思う。
(好き、、、光輝、、、誰よりも、、、でも、、、)
正樹はその想いを断ち切るように、光輝の身体を突き飛ばそうとした。
だが、光輝の方が背も高く、バレーボールで鍛え上げられた身体には正樹の力は通用しない。
「んっ、光輝、、、ダメ、、、光輝!!」
光輝は、自分の腕の中に正樹をずっと閉じ込めておきたかった。離れたくないと思いながら腕の力を一層強めた。
「正樹、、、好き、、、ずっと一緒にいたい」
「ダメだ、光輝、、、」
拒絶する言葉に、光輝は口付けを辞め、悲しそうに額を正樹の額に当てる。
「なんで?」
「俺達、男同士が付き合うなんて許されない。家族を悲しますことが俺には出来ない。だから、俺の事は、、、」
光輝は、そんな言葉聞きたくないと思う。だが、その反面、正樹を何年も誰よりもずっと好きだから。
その、大好きな正樹の為なら、、、。
「うん。分かった。正樹の気持ちを尊重する。でも、忘れないで?ずっといついつまでも、正樹を好きだから」
光輝は、嗚咽するほど泣きじゃくりながら、また正樹を抱きしめた。
正樹も、ただ光輝の腕の中で、嗚咽する。
しばらく経つと、あんなに土砂降りの雨が、徐々に雨が上がっていく。
雲の切れ目から、2人を包むように光が差し込む。
二人は、軽く口付けをした後、抱きしめあっていた身体を離す。
「光輝、誰よりも愛しているよ」
光輝は、嬉しそうに笑い頷きながら、屋上の扉へ指を指す。
「ありがとう。俺も正樹を愛してる。でも、もう言わない。俺達は今まで通り親友だ。さ、行って?」
正樹は、頷く。
「さようなら、光輝」
正樹は、そう言うとゆっくり扉に歩いていく。
扉をゆっくり開け、光輝に振り向く事もせず出ていった。
その後ろ姿を見ながら、光輝はまた涙が溢れ出す。
正樹には聞こえない小さな声で囁く。
「さようならなんて、言えない、、、」
この気持ちを届けたいけど、できない。
これから先、正樹の隣には光輝以外の誰かがいる。
それを、なんでもないように、親友として見守っていく事になる。
今までも、張り裂けそうなこの熱い思いを押し込めて
きた。
それがとうとう胸いっぱいで溢れ出して、もう止めることができなかった。
それは正樹も同じだった事を知った今では、もうこの気持ちを押し込めておく事なんてできない。
それに、自分より特別な存在ができるであろう事に、怒りが込み上げてくる。
光希は、屋上の扉を背に向けて、一歩づつ歩く。
おぼつかない足取りで、屋上の網に近づき、網を鷲掴みする。
光希の心の暗闇を照らすように、太陽の光が光希を包み込む。
その光はいつもより暖かくて、美しく感じる。
その光に包まれながら、平静を取り戻すと同時に高笑いする。ある考えが頭をに浮かんだのだ。
それは誰からも理解されることは無いだろう。
「この方法なら、正樹と一生一緒にいられる」
そう呟き、屋上の網を背にし、顔を上げてクスクス笑う。
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