かみさまのこども

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 さて、この事態をどう説明すべきだろう。  唯香(ゆいか)は尻餅をついたままの体勢で、籠ごと放り出された、今夜の鍋用の茸を拾い集める事もできず、目の前に倒れ伏す少年を見つめていた。  年の頃は十二、三か。黒髪黒瞳が常の加羅川国(からかわのくに)では見かける事の無い、晴天と同じ色の髪を持ち、唯香の纏う麻の着物とは違う、高級そうな白い衣は、山の土で汚れてしまった。 「唯香!」  自分の名を呼び、草を踏み締めて走ってくる者がいる。この声は、隣家の颯太(そうた)だ。 「帰りが遅いから心配したぞ。なに、ひっくり返ってる……」  十六の唯香より三つばかり年上のこの幼馴染は、いつも兄貴風を吹かせて唯香にあれこれ口出しをする。今もまた小言を降らせようとしていたのだろう青年は、唯香の視線の先を追ったところで、弁舌を仕舞い込んでしまった。 「なんだ、そいつ」  明らかに不審と不機嫌を孕んだ声色で、颯太は問い詰めてくる。唯香はひとつ、溜息をつき、ありのままを話した。 「空から落ちてきたのよ」  途端、颯太が低めの鼻を鳴らして、眉間に皺を寄せる。だが、それが事実なのだから仕方が無い。  この少年は、突然空から降ってきて、茸を採り終えて村に帰ろうとした唯香の目の前に落下したのだ。それは吃驚(びっくり)して、籠を放り出しもするだろう。  土が緩衝材になってくれたのか、目立った外傷は無いし、うつ伏せの背中がゆっくりと上下しているから、生きてはいるだろう。だが、いくら無事そうに見えても、頭を打っているかもしれない。 「颯太」  幼馴染の名を呼べば、彼の顔が更に顰められる。この青年が、ただの年上の矜持や上から目線だけで、なんやかんやと自分に構ってくるのではない、という事は、唯香も重々承知している。その甘さにつけ込むのに、多少の罪悪感を覚えながらも、願いを継いだ。 「村へ連れ帰って、手当をしてあげよう。運んで」  予想はしていたのだろう。颯太は腕組みして目を閉じ、『面倒な事を』という不満がありありとわかる長息を洩らす。が、それ以上何かを口にする事は無く、身を屈めて少年を仰向けにひっくり返すと、畑仕事で鍛えた逞しい腕を、少年の背と足に回して、軽々と持ち上げた。
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