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それはピオニーの雨だった。
まるで雪のように、初夏の町にピオニーが降っていた。
肩を震わせて泣いている彼女のまわりがピオニーで埋め尽くされる。
道路の灰色が塗り替えられてゆき、淡い桃色が町を染め上げる。
じっと見つめる僕に気がついて、彼女がこちらを見た。
ファフロツキーズ現象。
嵐で空に舞い上げられた魚が降ってくる。
昨日の大雨で散ったピオニーが、僕らに降り注いだのだろうか。
淡い花々に囲まれた彼女は、涙を拭って、泣くように笑っていた。
世界が花で埋まっていく。
少し離れた彼女に聞こえるように、大きな声で僕は言う。
『いつか必ずあなたには…』
目の前を、淡い桃色のピオニーが舞い落ちた。
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