21頁

17/17
前へ
/193ページ
次へ
「……っはあ」 灼熱の砂浜が炙り返す熱は、僕らの全身を包むように纏わり付いた。 重なる唇から漏れてくる甘い吐息は、色の香りを染み込ませて互いの顔に降りかかる。 僕は声を出すこともままならない程、彼女の強く熱い口づけを受けていた。 「…隼くん…あっついわね…」 息を切らしながら、彼女は僕の耳にそんな事を吹き込んだ。 反射的にビクッと体を驚かせる僕に、満足そうな笑みを浮かべてまた追撃してくる。 暑いのは、この炎天下だからか、二人の息が重なっているからか…。 最早どちらかも分からなくなるほど、気がついたら僕たちは体をひっしりと密着させ合っていた。 僕は貪るように彼女の全てを吸い込んだ。 一度外された理性のタガは、もう元に戻ることを知らない。 彼女の瞳に、柔らかな胸に、しなやかな腕に引き込まれるように、僕は自分の全てをぶつけた。 8月の真夏の空の下。 照りつける太陽が真っ白な雲を輝かせている。 見渡す限り海と草原が広がる景色は、僕たちをまるで獣のように開放的な気持ちにさせる。 自由で開放的なこの気持ちは、きっとこんな場所だから生み出されたもの。 突き抜けるほどの高い空は、真っ直ぐ伸びていく二人の昂ぶりを邪魔しなかった。 時折耳を湿らす香しい海風は、速まる鼓動に合わせてリズムを刻んでいた。 貼り付き妙な感触を加える体の砂も、太陽の果汁のように絞り出る汗も、何もかもがこの海原で起こっている一夏の魔法。 だから、僕も菜摘さんもこれまでにないくらい激しく体をぶつけ合い、互いの名前を叫び合い求め合ったのも、きっとこんな昼だったから……。 世間も常識も忘れるくらい、暑くて広いこんな浜辺だったから… 最後の一滴を染み込ませた僕らは、力が入らない体を倒したままにして、必死に頭の中でそんなことを考えるしかなかった。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加