思い出話をしましょう

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 暑い夏が終わりましたね。風に秋の香りが混じる頃はいつも、少し寂しい気持ちになるのですよ。知っていましたか? そんな時は、私はあなたの黒い瞳を見つめると、気持ちが和らぐのです。  ああ、今日もこのビルのベランダに出て、あなたと秋風に吹かれてみる。幸せじゃないですか。  このビルにいる人たちは、会社の昼休みに私たちをベランダで見かけると、それはそれは嫌な顔をしますけどね。  私は決して強くないのです。負けず嫌いなだけですよ。でも、あなたは強いから、そんな人たちの視線にも負けないのですね。  あ、雨が降って来ましたよ。雨が降ると、このビルに人がすごい勢いで吸い込まれて行きますね。そして、中に入れば外のことなんか誰も気にしなくなります。だから、私たちが並んで外を眺めている姿を、人はあんな顔して見ているのでしょうね。  世の中が、ウィルスだの不景気だの騒ぐ中、人々の目に私たちはどう映っているのでしょうか。昔、私があなたと出会った時、その瞬間あなたしか目に映らなくなりましたけど、それとはまた別な感じで、彼らの目には私たちしか映らない時間があるのでしょう。
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