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「本当にありがとうございました!」
お母さんが男の子を抱き締め笛木さんに頭を下げる。
彼女はキョトンとして、小さく頭を下げ返していた。
「妖精のお姉ちゃん、ありがと!」
お母さんと再会できて落ち着いたのか、満面の笑みの男の子。
その愛らしさに笛木さんも顔が綻んでいて、なんだか心が満たされる。
「あと……魔女さんも」
「え……?」
「ありがとう!怖くない魔女のお姉ちゃん!」
私に向かって手を振る男の子に、瞬く間に涙腺が緩んだ。
嬉しい。
……嬉しい。怖くない、魔女のお姉ちゃん。
「ありがとう笛木さん!おかげで解決しました!」
「なんで……」
「笛木さんが居なかったら大変なことになってました。やっぱり、可愛いは正義です!」
有頂天になった私の言葉に、倫と一馬さんはぶっと噴き出して笑った。
だけど笛木さんは、ぴくりとも口角を上げない。
「……なんでよ」
それどころか、苦しそうに私を睨みつけた。
「……やっぱりあんた嫌い!なんなの!なんで笑ってられるの!」
「笛木さん……?」
「あんた見てるとなんで腹が立つのかやっとわかった。あんたは、“自分”がない!相手が見たまんまの自分を、自分にしてんの!」
……言われてしまった。
恐れていた核心をつかれたのに、嫌な気分にはならない。
笛木さんがいつになく一生懸命、必死になって私に問いかけてくれているから。
「なんで他人が作った自分の通りに生きるの!あんたはもっと、あんたが思うようになんでもすればいい!私がムカつくならムカつくって言えばいいし、店長が好きなら好きって言えばいいの!」
「笛木さん!!」
……それだけは暴露してほしくなかった。
「雪ちゃん……?」
もう終わりだ。
恐る恐る振り向いた先の一馬さんは、真っ赤になって呆然としている。
「あーもう。白けた。私帰る」
「ちょっと!笛木さん!」
猫耳をつけたまま颯爽と去って行く笛木さん。
倫は感情の読み取れない表情で、黙って遠くの方を見つめていた。
もう、私と視線を合わせてはくれない。
「……俺も。俺も好きだよ。雪ちゃんのこと」
「………………」
……まさか。
「……ずっと好きだった」
そんなこと、あるはずない。
「おめでとう」
背中を押してくれるような心強い倫の声。
だけど私は、その声が突き放すように聞こえて寂しさを覚えた。
「じゃあ、俺も帰るね」
いつものように飄々と笑って、去って行く倫の後ろ姿。
行かないで、と言いそうになる自分に驚いて、しばらく立ち尽くしているのだった。
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