奇妙なお茶会

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「雪ちゃん大丈夫?具合悪いんじゃない?」  さっきの笛木さんの言葉を反芻しながら黙って歩いていた私を、一馬さんは心配そうに覗き込む。  その背後で笛木さんが睨みをきかせるから、慌てて首を横に振った。 「大丈夫です!行きましょう!」  本当は今すぐ帰りたいけど、せめて一馬さんが行きたいと言っていたカフェには同席しないと。 「お腹空いたー」 「何食おっかな」  未だ笛木さんの隣をガッチリ守っている倫の背中を見つめる。  倫は本当に、私の為に笛木さんにアプローチしているの?  それとも、途中から本当に彼女に惹かれ始めているとか。  どちらにしろ笛木さんと一馬さんは良い雰囲気なんだから、もうこんなことやめさせないと。 「倫!」 「はい!?」  突然大声を出す私に、倫は肩を弾ませて振り向いた。 「な、何?雪」  彼の目をじっと見つめ、覚悟を決める。 「私隣座ってもいい!?」 「は!?」  カフェに入ると、まだ返事もないうちから倫の隣に腰かけた。  倫と一馬さんは目を丸くさせ、笛木さんだけは満足げに微笑んでいる。 「ちょっと雪、俺はありあちゃんと」 「たまには私だっていいでしょ?私、倫と座りたい」  自分らしからぬ発言に顔から火が噴き出そうだった。  でも今更後戻りできない。 「私じゃだめ?」  倫は急に真っ赤になって、珍しく動揺しているようだった。 「……だめじゃないです。宜しくお願いします」 「なんでいきなり敬語なの」  これでしばらくは、二人は邪魔されない。  ホッと胸を撫で下ろす。 「店長何にしますー?」 「…………ああ、」  向かいの席の二人が仲睦まじくメニューを眺める姿は壮観で、もう焼きもちを妬くこともなかった。 「ありあちゃん、俺も」  ……倫、しつこい。  尚も笛木さんに話しかけようとする倫にメニューを差し出して、やや距離を縮めた。 「倫!また一緒にシェアしようよ。パスタとカレーどっちが良い?」 「えー!あの、いや……」  なんだかさっきから倫の様子がおかしい。  真っ赤になって焦ったり、ソワソワしたり。 「倫、おしぼりどうぞ」 「ありがとう……嬉しい」 「そんな感極まらなくても」  いつもと様子の違う彼の姿は新鮮で、内心少し可愛らしいなんて思ってしまう。
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