奇妙なお茶会

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「雪さんいきなり大胆ー」  笛木さんは素知らぬ顔で無邪気に笑う。  疲れたのか無口になる一馬さんと、ドギマギする倫。  カオスな空気に辟易して、食事も喉を通らない。  せっかく片思いの相手と初めて一緒に食事ができたのに。  きっともう、最初で最後だ。 「ねえ、こういうシーン見覚えない?」  倫の一言にハッとする。 「こうやって男女四人がさ、黙って食事するシーン」  すぐになんの映画なのかピンときてしまった。  男女四人が織り成す群像劇で、それぞれの思惑を隠しながらも何食わぬ顔で食事をするシーン。  確かにこの状況とそっくりで、あまりの滑稽さに噴き出してしまった。 「わかる!それって○○?」 「そう!」  嬉しそうに人差し指を私に向ける倫。  なんだかやっと元の倫に戻って、心を通わせることができた気がした。  やっぱり倫とは、こうして映画の話をして笑い合う時が一番楽しい。 「……どういう映画なの?」 「一馬さん?」  控えめに一馬さんが微笑む。  興味を持ってくれたことに嬉しくなって、調子に乗った私は饒舌に作品について話し始めた。 「~ってシーンがあって、それがこの状況とすごく似てるんです。一馬さんは○○っていう王子様みたいなキャラ。倫はプレイボーイな○○。笛木さんは美人なヒロイン。私は、三人を振り回す悪女です!」  最後の一言に三人は揃ってお茶を噴き出した。 「悪女って」 「なんでそんなイキイキして言うんですか」  一馬さんは苦笑して、笛木さんは呆れたように言う。  でも倫だけは、とても嬉しそうに笑っていた。 「いいねー。やっとその顔見れた」  ポンポンと頭を撫でてくれる倫に一瞬ドキッとする。  いつからだろう。  倫が笑うと、とても心が満たされる。  こうしてありのままの自分を受け入れてくれることに、どれほど救われているだろう。
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