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____「雪、どういうつもりなの?」
午後のショーを鑑賞し終えた頃、倫が訝しげに私を見た。
あまりにも私がグイグイ倫に近づくから、半ば2対2の別行動と化している。
遠くの方で歩く一馬さんと笛木さんの美しい後ろ姿を眺め、脱力したように笑った。
「どういうつもりって?」
「なんで急に俺にモーションかけてくるの?」
直接的な言い回しにドキッとして、なんて答えていいかわからない。
「……ごめん」
「いや謝らないでよ。なんか余計」
倫は真っ赤になって頭をくしゃくしゃ掻いた。
「なんか余計……揺らぐ」
いつもの倫じゃないみたい。
切なげに目を伏せる表情はどことなく色気を醸し出し、まるで映画のワンシーンのように目を奪われる。
「どうせ笛木になんか言われたんでしょ?」
「違うよ。もう、こんなことやめよう?」
「なんで」
倫は少し苛立っているようだった。
「雪は甘いんだよ。そんなんじゃいつまで経っても欲しいものは手に入らない。自分のこと悪役って思うなら、最後まで貫き通せよ」
私はどこまでも中途半端な人間だ。
欲しいものがなんなのかわからなくなってしまった。
だけどひとつだけ、ハッキリわかっていることがある。
「これ以上倫が悪役になってほしくない。倫は私にとってヒーローだから」
いつも私のことを救ってくれたから。
「なにそれ」
倫はポカンとして固まった。
だけどすぐに顔をくしゃっとさせて、嬉しそうに笑ってくれる。
その笑顔を見るだけで、驚くほど心が満たされていくのがわかった。
「倫。このまま私と」
言いかけた瞬間、勢いよく子供の泣き声が響いた。
びっくりして顔を見合わせて、すぐに声の主のもとへ駆け寄る。
幼稚園生くらいの小さな男の子が、たった一人で手で涙を拭いしゃくり上げていた。
「迷子かな」
倫の一言に背中を押されるようにして、しゃがんで男の子と視線を合わせる。
「大丈夫だよ。待ってて、一緒におうちの人を探すから」
しかし男の子は私を見た瞬間、青ざめて再び大声で泣き出した。
「うわぁぁぁ!まじょだぁー!あっちいけー!」
「………………」
今のは流石にこたえた。
必死に愛想笑いしてるけど、私だって泣きたい。
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