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昔昔、読み聞かせてもらったおとぎ話。
めでたしめでたしのその先が、気になって仕方なかった。
かえるの王様が、再びかえるになってしまったら?
シンデレラが、もしも王子様と喧嘩したら?
その後に思いを馳せるばかりで、ちっともうっとりした気分に浸れなかった。
悪者は全員いなくなってしまうの?
それって、本当にめでたしめでたし?
____「大丈夫?雪ちゃん」
ハッとして我に返り、目の前の一馬さんに視線を戻した。
Three o'clockの閉店後、こうして二人で定期的に会うようになって数日。
一馬さんとは連絡先を交換したし、お互いの気持ちも伝え合って交際が始まった。
「元気ない?」
「いえ……」
どこか寂しそうに揺れる瞳。
彼をこんな顔にさせてしまうのは何度目だろう。
ずっと夢見ていたことが現実になって、幸せの絶頂のはずなのに。
どうしてこんなに心が晴れないんだろう。
「そう言えばさ、笛木さん辞めちゃった」
「え……」
一馬さんは苦笑して頭を小さく掻く。
「二軒先のバーでバイト始めるって。そこの店長、イケメンらしいから」
「そんな」
彼女のバイタリティは凄い。
最早尊敬の域だ。
『あんたはもっと、あんたが思うようになんでもすればいい!』
結局、彼女に背中を押される形だった。
私のことであんなに怒ってくれて。
それなのに私、自分だけが上手くいっていいのかな?
「雪ちゃん」
「はい!?」
「……いや、なんでもない。デザート作ってくる」
厨房へ向かう一馬さんの背中を眺め、胸がちくりと痛んだ。
なんだかあの日の奇妙なお茶会が恋しくて。
もう、四人で会うことはないんだと思うと、どうしてもうまく笑えないのだった。
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