白馬の王子とAセット(スープ、サラダ、コーヒーor紅茶付き)

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 ああ、フロアに入りづらいな。  鈴木さんからあんなに嫌われているとは思わなかった。  次からどんなふうに接すればいいんだろう。 『雪ちゃん優しいから』  昨日王寺さんに貰った大切な言葉を思い出し、奮い立つように深呼吸をしたその時。 「おはよ、黒岩さん。なんでそんな辛気くさい顔してるの?」  朝から清々しい森のような空気を放出し微笑む姫宮さんに、傷を抉られてしまった。 「……悪とはやはり絶対悪で、その上必要悪なんだってことを思い知らされたので」 「何?映画の話?」  廊下を歩いても歩いても、ずっと後ろからついてくる。 「なんでもないです。……それより、私と話していると姫宮さんの評価も下がるんじゃないかと」 「え?なんで?」  キョトンとする姫宮さんに、私も面食らう。 「知ってるでしょ。私、嫌われてるので。絶対悪ですので」  うわあ、初めて自称してしまった。  ここからが悪への本格的覚醒かもしれない。 「さっきから何言ってんの?悪なわけないでしょ黒岩さんが」  まるで昨日の王寺さんのように屈託なく笑う彼にびっくりして、歩みを止めてしまった。  それに合わせて姫宮さんも立ち止まる。 「確かに皆が言うように見た目はキリッとした顔立ちでとっつきにくそうだけど。いいじゃん、凜としてて。……俺は好きよ?」 「………………」  …………好き? 「それに中身めっちゃ良い人じゃん。すげー好き」 「………………」  …………好き……。 「ってことで、今日も一日頑張ろうな。好きだよ」  ここまでくると、からかわれていることは充分にわかったけど、それよりも私は、好きの威力でかき消されそうになっていた『良い人』というワードの方に感激し打ち震えていた。  中身良い人って。悪役の私が。  いつの間にか居なくなっていた姫宮さん。  もしかしたら皆から嫌われて落ち込んでいた私を、彼なりに励まそうとしてくれたのかもしれない。  そう思うと、彼の方こそ良い人なのではと考え改めるのだった。  
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