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「鈴木さん。もう少し黒岩さんに感謝した方がいいよ」
姫宮さんは美しい笑みで鈴木さんを圧倒し、飄々として言った。
「黒岩さん、ずっと先方にクレーム受けてて、部長からもう新人は外せばって言われてたんだ。だけど『自分が責任もって育てるから』って君のこと守ってくれてたんだよ」
さらっと暴露され、全身が沸騰するように熱くなる。
「黒岩さん、私のこと……」
この間と同じように鈴木さんは目に涙を浮かべ、深々と頭を下げる。
恥ずかしさのあまり思わず私も頭を下げ返した。
「すみませんでした!私、黒岩さんのこと誤解して」
「いえ、こちらこそ、言葉が足りませんで」
____「素晴らしいわ!」
静まっていたフロアに再び響く、今度は女性の声。
「風通しの良いアットホームな会社!ほとばしるヒューマンドラマ!熱い!熱いわ!」
奇抜なメイクと真っ赤なワンピース。
大御所映画監督の白澤さんだ。
姫宮さんはちらりと私を一瞥しこっそり親指を立てる。
「決めた!ここにする!浅井さんとこと一緒に上映したい!」
まさか、早くも業界内で話題になっている新作を、うちで契約してくれるってことだろうか。
「ありがとうございます」
そうだとしたら飛び上がるほどの利益なのに、姫宮さんは特に動じることもなく、まるで当たり前のようにさらりと笑っている。
握手を交わす監督と姫宮さんにフロアは拍手喝采が沸き、この展開についていけない自分だけは放心して立ち尽くすのみだった。
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