白馬の王子とAセット(スープ、サラダ、コーヒーor紅茶付き)

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「白澤作品獲得おめでとうございます!」  皆が意気揚々とグラスを交える中、私もテーブルからほんの3㎝ほどジョッキを上げた。  会社の飲み会は入社の時以来だ。  いつも断るか、そもそも誘われないかの二択……いや、そんなことを今思い出すんじゃない。  つんっと小さく私のジョッキにグラスを当ててきたのは、左斜め向かいの席に座っている姫宮さんだ。  この飲み会を開いた張本人。  そして、詳細は省きますが巧みな技を使い断りづらい方向へもっていった張本人。 「いやー、うちの会社しばらく安泰すね。さすが姫宮さん!」  皆に拍手される中、姫宮さんは涼しい顔で笑っている。 「黒岩さんと鈴木さんのほとばしるヒューマンドラマのおかげだよ。熱い!熱いわ!」  白澤さんのモノマネにどっとお座敷が湧く。  この人間力を突きつけられるとひれ伏すしかなかった。  コツンと再びジョッキに音が鳴る。  少し気まずそうにして、鈴木さんが顔を赤らめ遠慮がちにグラスを合わせてくれたのだった。  嬉しくて嬉しくて、涙腺崩壊寸前で思いきりビールを呷る。 「お、黒岩さん結構いけるくち?」  何故か嬉々として姫宮さんは微笑む。  艶やかなさらさらの黒髪、キリッとした眉毛と力強い目元。  改めてまじまじと見るとなかなか迫力のある顔だ。    同期入社の彼は、瞬く間に能力を発揮させ出世していった。  先見の明、瞬発力と判断力、物怖じしない勇気。  そして何より、コミュニケーション能力の高さ。  どれもこれも、喉から手が出るほど欲しい才能だ。  だけど同時に、やっぱりちょっと苦手。  学生時代、私のことを疎ましがったりからかってきた人というのが、どちらかというと彼のような要領の良く世渡り上手な人達だったから。  姫宮さんは良い人みたいだし、偏見はいけないとわかりつつも、どうしても気後れしてしまう。
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