エピソード1・「おいしいものを好きなだけ」

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 どうしようもないことは、わかっている。切なくなってくるが、店主らしきご婦人が屋台の奥から顔を出した。 「こんにちは!」  ちょっと、ふしぎに感じた。「いかがですか」と、見ていた餃子をすすめられてしまうと思ったのに。とてもご機嫌な調子と表情で、「こんにちは」と、ご挨拶。いや、人として、挨拶は大切だけれど。  思わず、逆に訊ねる。 「こんにちは。あの、餃子があるんですか」  店主は、ええありますよと、やはりご機嫌な様子で頷く。何がご機嫌なのだろうとも思うけれど、今は置いておこう。 「とってもおいしいんです。私が食べて気に入っちゃって! 作っていらっしゃるお店から、置かせていただいているんですよ」  説明する声の抑揚が心地よく、どうやらご機嫌なのは挨拶のときからだから、この店主さんの様子のまま、なのかもしれない。色々な、おもしろい魅力を感じるものを並べている屋台。それに、おもしろい店主さんだとも、彼女は感じた。 (食事は、医療食だけって決められているけれど。今日くらい、いいわ。食べちゃいましょ) 「冷凍餃子、ひとつください」  すこし、胸の中にずっとあった、とぐろのようなものが薄まっていた瞬間だった。ありがとうございますと、店主はすぐ、冷凍餃子を袋に入れてくれる。 「本当に、すっごくちゃおいしいですから! 期待して召し上がってくださいねっ」  笑顔ですごいなぁ、ハードル上げるほどなのか! 食べられないのが本当にうらめしいと、いつもなら思ったかもしれないけれど。 (よし、今日は久々に、餃子!)  何故だか、吹っ切るパワーまで貰った気がしたから、そんなことはどうでもよく、はずむ気持ちでお会計をした。    *
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