奪われる想い

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立ち上がって振り返ると桃香先輩は、「ああ」と返事をした。 返事を……した。 「あ、あの、今帰って来たんですよね。晩ご飯は?食べましたか?」 桃香先輩は視線を泳がせてから、「いらない」と答えた。 何で? 何で今日は返事をするんだ? 「何も食べてないんですか?」 今帰ってきたのなら食堂はすでに締まっている。ここに冷蔵庫はあるけど飲み物しか入っていない。 思い出して「今日、叔父さんにもらったんですけど、食べますか?」俺は立ち上がって冷蔵庫からもらってきたプリンを2個差し出した。 少し驚いた顔をしたあと、受け取った。 返事をしてくれたことで俺はテンションが上がって、「スプーン取ってきます」と桃香先輩に座るように促してスプーンを渡した。 桃香先輩はフィルムを剥がすと黙々と食べ始めた。 「美味い?」 プリンを食べながら視線だけこっちに向けて頷いた。 ………。 何これ可愛い。 俺の中の何かが射抜かれた。 「もう一個食べますか? 俺、甘いもの苦手なんで」 桃香先輩は頷いてもう1個を手に取った。と、同時に『ピンポーン』と来客を知らせるチャイムが鳴った。 「誰かな」
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