感情

2/5
前へ
/97ページ
次へ
「まあ、『ああ』とかだけですけど、返事はしてくれましたから」 「へえ、すごいね。僕に言われて喋るなんて一臣も随分凹んでるんだね」 「どういう意味ですか?」 「一臣は僕の言うことなんて聞かないから、なのに喋ったってことは、僕の言うことを聞いてもいいくらいには凹んでるってことだよ」 「何で桃香先輩が凹むと嬉しそうなんですか?」 「別に嬉しいってわけじゃないけど」 何かを含んだ言い回しにイライラする。 「B寮の歪は大きいみたいだね」 それは昨日叔父さんからも聞いた。 桃香先輩が喋らないことで生まれる歪。 「このまま桃香が喋るようになったらいいんだけど」 その言葉で気が付いた、この人は元副寮長としてちゃんとB寮のことを気にかけているんだと。 俺と喋ったという事は、桃香先輩も喋らざるを得ないと確信しているんだということだ。 「僕がいつまでも一臣のそばにいちゃダメなんだよ」 「……でも、それは俺じゃ出来ないですよ」 「どうかな。一臣は喋ったんだから」 「それは、今、俺が側にいるからであって、また人が変われば……」 副寮長が決まるまでは俺は部屋の移動が無い。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

275人が本棚に入れています
本棚に追加