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地下の町で窮屈な日常を送っていたある日、僕たちは扉を見つけた。学校終わりに友達と冒険と称して町のあちこちを巡っていた時の事だった。あの日、僕らは入ってはいけないと言われていた区域に足を踏み入れた。肝試しのつもりだったんだ。
非常電源だけが通路の足元をぼおっと照らす通路に僕たちの足音だけが無機質に響き渡る。軽口を叩き合いながら、時々暗闇から視線を感じたような気がして怖がりながらも身を寄せ合いつつ進んでいく。そんなちょっぴり刺激的な行進を続けていくと終わりが見えないほどに上に上に何処までも階段が続いていく吹き抜けに辿り着いた。
階段はすっかり錆びて茶色になってしまっている。その階段がどこまで続いているのだろうとみんなで揃って上を見上げてみても階段が伸びる先は天井も見えない暗闇の中に消えていくだけで何も見えなかった。
「登って確かめてみようぜ」
誰かが言った。僕も友達もその提案に賛成して、錆びた階段に足を踏み入れようとした。
「ガキ共、立ち入り禁止の看板が読めなかったのか? この先は危険で最悪死ぬかもしれねぇ。さっさと戻って別の場所で遊びな」
後ろから声を掛けてきたのはボロボロの帽子を深く被ったおじいさんだった。そのかすれた低い声に僕らは驚いて飛び跳ね、全員がほぼ一緒のタイミングで振り向いた。警備員のような服に身を包んだおじいさんは懐中電灯の光を僕らに向けたままコホッコホッと咳をしていた。
「ああ、驚かせちまったのは悪かった。お前らはこの先が気になるんだろうが……何もねぇよ。この先は人間にとってもう用のない場所だ。もうすっかりボロボロになっちまって何が起こるか分かったもんじゃない。もし、万が一ここで怪我でもされたら俺は仕事をクビになっちまう。だからここは素直に帰ってくれ、な?」
警備員のおじいさんに優しく諭されて僕たちは素直に戻る事にした。そこからはまたいつものように僕たちは居住区エリアで遊んでいた。けれど、僕はさっきのあの場所が気になってしょうが無かった。おじいさんは何も無いって言っていたけれど本当は何かあるんじゃないだろうか?立ち入り禁止というのは大人たちの嘘で、大人たちが隠している秘密の何かがあるんじゃないだろうか?僕は友達と遊びながらも想像を膨らませていった。何よりもあのおじいさんが帰り際になんだか懐かしそうに階段の上を見つめていたのが印象的だった。
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