⒈ 白緑の吐息

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充哉の手の中には1枚のチケット。 【 clown anniversary live tour 前夜祭 】 ライブタイトルと日付と協賛と主催、額面をみて少し息をのむ。 「コンサートライブってこんなに値段張るのか。」 つい独り言が口から飛び出した。 どうしようかと考えつつ、とりあえず大切に保管する。 スマホに目を落とすとバイトの時間が迫ってきていた。 「やば」 予定通り帰国していた圭は、眠い目をこすりながらキャリーバッグを開けて荷物の片づけをしていた。 とりあえず横になりたい衝動に駆られながらも、今やってしまわないと永遠にこのキャリーバッグはこのままだ。部屋の片隅に追いやられオブジェになってしまう。そして、あれがないこれがないと言いまた新しく買い足してしまうのだ。だから、帰宅したらすぐに片づけなさい。 マンションまで送ってくれたマネージャーの冠城(かぶらぎ)にこんこんと言われたのだった。 きっと明日か明後日には片づけられているか確認してくるはずだ。 電話やメールでの確認ではなく目視で確認にくる、絶対。 それほどまでに、圭の生活能力には一切の信用性がない。 詰め込まれた衣服の間から小さな紙袋が発掘された。 なんだろう、と一瞬考えたがすぐに思い出し笑みが漏れる。 贈る相手を思い浮かべると、なぜか笑えてくる。 あの子犬のような彼はどうしているだろうか。 ちょうど片づけにも飽きてきたころだ。 出勤していなかったら、誰かに預けてこよう。 そう考え、一旦片づけを中止しカフェに向かうことにした。 さっきまでの眠気はどこへ行ったのか。 .
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