⒈ 白緑の吐息

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大通りから一本入ったところ。閑静な住宅街の一角。 近くには芝生のきれいな公園があり、天気の良い日には親子連れやカップルがゆったりとくつろいでいる。今日は、まだ芝生が湿っぽい。 植木にテラス席が囲まれ、通りからは客の姿は目に入らない。 レンガ造り風の外壁、出入り口ドアに向かい緩やかなスロープが流れる。 ステンレス製の手すりには水滴がついている。 ドアには『open』と書かれた店長お手製の木製のプレートがぶら下がっている。引き戸を開けると、カランカランと子気味よくドアベルが鳴る。 「いらっしゃいませ」 カランとベルが鳴りやむと、カウンターにいた男性が声をかけてくる。 店内には静かにジャズが流れている。テーブル席に何組か座っており、ケーキや焼き菓子を楽しそうに食べている。 店内を見渡すが子犬の姿は見つけられなかった。 「柴崎さんは?」 カウンターの男性店員に控えめに声をかける。 「どっちの柴崎ですか?シュッとした方?」 男性店員は少し考えて聞き返した。柴崎は兄弟でバイトしているのだから。 経験則で充哉だろうと判断し、シュッとしたイケメンと提案した。 圭はこくんとうなずき、彼に渡してほしいとバッグから小さな紙袋を男性店員に預けた。 「もうすぐ来ると思うけど、お預かりして構いませんか?」 お願いします、と言い残し圭は店を後にした。 店の奥から誰かが駆け込んできたような物音がした。 「みっちゃーん。」 圭から預かった紙袋をぶらぶらと顔の前で振りながら、ニタニタと充哉を見やる。 「なんすか…それ。」 紙袋を受け取り、中身を確認する。紙袋の中にまた小さな紙袋。 封を開けると、パンダのぬいぐるみストラップが入っていた。 「これ…!」 ニタニタしながら「追いかければ間に合うよ。」と言い残し店内に戻っていった。
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