⒈ 白緑の吐息

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パンダを握りしめ、今入ってきたばかりの裏口を飛び出す。 圭が店を出てどの方向に行くのかは知っている。 大通りに向かい走る。 コーヒーを買うわけでもなく、自分にこのパンダを渡す為だけに来てくれた。 そんなことをされると、期待してしまう。舞い上がってしまう。 会いたい。 大通りにある交差点で彼女は信号待ちをしていた。 スキニージーンズにロングカーディガンの後ろ姿。さらさらした金髪が風に揺れている。 「待って…!」 信号が青になり少ししてから彼女は一歩歩を進めた。 行ってしまう、行かないで、と勢い余り彼女の腕をつかんでしまった。 驚いた彼女は振り向くと同時に、充哉が腕をつかんだことによりバランスを崩す。充哉は転びそうになった圭の腕をそのまま自身の方に引き寄せ抱き留めた。 シャンプーの香りなのか、柔軟剤の香りか、香水の香りかは分からないけれど、抱きしめた圭からは甘くスパイシーないい匂いがした。 思いもよらず抱きしめてしまった彼女の身体は、充哉の思っていた以上に細く、強く抱き締めると折れてしまいそうだった。 充哉の鎖骨あたりで、気まずそうに顔を赤らめた圭がうごめいた。 「ごめん、ありがとう、放してください。」 ポツリぽつりと圭が言うものだから、充哉は腕の力を緩めた。 だが放す気などなく、両腕は圭の腰にまわしたままだ。 「放したくはないです。」 確固とした意志がうかがえる言いぶりだ。 圭が顔を上げると、鼻と鼻とがくっつきそうなほどの至近距離に充哉のきれいな顔があった。 圭はヒュッと息をのみ、慌てて顔を伏せた。 「いや?俺のこと…」 頭の上からさみしそうな子犬の声が聞こえてくる。 「そうじゃなくて、放してほしいだけで…」 圭が充哉の身体を押しやるものなので、仕方なく彼女を開放した。 圭が距離を取ろうとしたので、充哉は圭の手を取る。
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