op. 薄い桃色

2/9

291人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
住宅街の一角に佇むカフェ。 店長が厳選したコーヒーがうりだ。 モーニング時には、コーヒーとサンドイッチなど軽食をテイクアウトする客が多い。 小さく流れるジャズ、店内に漂うコーヒーの香り。 晴れた日はテラス席からの日の光が気持ちよく店内に差し込む。しかし、今日は生憎の曇り空。 天気予報では午後からは雨だった。そのせいか店内にいる客は3人ほどと少ない。 朝と昼の間くらいの時間帯。今にも雨が降り始めそうだ。 店の外に彼女の姿が見えた。 「どけ」 レジにいた義弟を静かに力強く引っ張る。 カランカラン 扉に付けてあるベルが子気味良く音を鳴らす。 「いらっしゃいませー」 引っ張られた腹いせとばかりに先に声を出す。 「こんにちは。ご注文は?」 ゛ああ、今日も可愛いな。″ 心の声が出てしまいそうなのをぐっと堪えてオーダーを聞く。 ゛いい匂いがする。かわいいかわいいかわいい…” 爽やかな笑顔の裏に、重い粘り気の強い感情を隠している。 義弟からはよく「キモい」と評されている。いつか法に触れてしまうのではないかと心配されるほどに、彼の彼女に執着する重い感情には一種の恐怖と嫌悪感があるらしい。 柴崎充哉(しばさきみつや) 身長は180㎝超、きれいに整った顔は小さく健康的な肌。いかにもモデル体型のイケメンだ。 人当たりもよく大学の成績もほどほどに良い。 女に困ったことはないと自他ともに認知しており、しかも女性の方から言い寄ってくるパターンばかりである。 だが困ったことに、相手に束縛されることを嫌い、毎日電話されたりと行動を抑制されることも大変嫌っている。実に面倒くさい性格をしている。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加