⒈ 白緑の吐息

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その日の夜――――― 充哉は自宅のリビングで、今日の出来事を思い出しニヤニヤしていた。 クッションを抱きしめながら悶えているので、帰宅した基はキッチンで夕食の支度をしている母に怪訝そうに「あの気持ち悪いの何?」と問いかけた。 「さあ?また彼女でもできたんじゃない?」 母はあまり興味を示さず答えた。 充哉の恋人も回転率の高さには飽きてきている。 「ミツ、きもい。」 基はソファー越しに見下ろして一言投下した。 「基、お帰り!聞いて聞いて聞いて!」 隣に座れと床をバシバシと叩いて促している。 なんだよ…と面倒くさそうに隣に座る。 「圭と付き合うことになりました。」 充哉は言った後へへ~と表情を砕けさせクッションに顔を埋めた。 「…まじかよ。いや待て待て。お前さ、あの人がこの人って知ってんの?」 デレデレの充哉に急いでスマホを見せる。 スマホの画面にはclown(クラウン)のギタリスト圭衣(けい)のアーティスト写真がうつっていた。 「これとか…」 ほかにもTwitterにあげていたオフショットや自撮りの数々を充哉に見せる。 「あ、かわいいー。これとか、ちょーかわいい。」 デレデレの充哉の頭はあまり働いていないようす。 「ミツ。これが、これでこれなのよ。わかってる?これ、お前の彼女じゃね?」 基は充哉に分かるように、画面をスクロールさせながら説明していく。 「………え?は?って、ええええ~~~???!!!!」 「充哉うるさい!!」 キッチンから母の怒号がとんでくる。 「…来週ライブ行く。」 「まじかよ。」 「確認した方がいいよな?いや、知らない俺も俺かもしれないけど。彼女のライブに行くのに本人に何も言わないってよくないよな。」 基に言ったのか、独り言なのか、充哉は早口で言った。 「LINEしてみよう」 充哉はスマホを取り出して文字を打つ。 「えーと、『会いたいです』と。」 すぐに返信が返ってきた。 充哉は通知に嬉々とする。 『明日は忙しいです。』 充哉は眉間にしわを寄せ『ちょっとも?だめ?』と泣きそうな子犬スタンプを送る。 画面をのぞき込んだ基は「あざとい」とつぶやく。 すこし時間が空いて返信が来た。 『家まで来てくれれば』 「っしゃーーーー!!!家デート確定来た!」 「充哉!!」 .
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