⒈ 白緑の吐息

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開場時間になると、人の列が進みだす。 自然と彼女が腕を組もうとしてきたので、充哉も自然と組ませない。 「整理番号何番だっけ?」 「ギリギリ3桁。」 「俺はじめてだから、端っこにいたいな。」 「うん、一緒にいようね。」 薄暗いフロアに入ると、洋楽のロックがBGMで流れている。 圭に言われた通り、下手側の後方に陣取れた。 さすがソールドアウトしているだけあり、満員状態だ。 「いっぱいだね。」 身体を寄せてきてこそっと話しかけてくる。 「こっちにいるけど大丈夫?誰ファンなの?」 「圭衣ちゃん。わかる?ギターの女の子。たぶんね、真っ正面だよ。」 すごく綺麗でカッコイイんだよ、と推しについて語ってくれる。 〝かわいいのは知ってる。カッコイイのか…〟 「目合わせてくれるし、結構ファンサしてくれるんだ。女の子なの忘れちゃうくらいカッコイイんだから。充哉くんも惚れちゃうかも。」 〝もう惚れてるし。何なら俺の女です。〟 とは言えず「そうなんだ、楽しみだね。」と話しを合わせる。 そうこう話ししているうちに開演時間になった。 バンっとライトが消され暗転する。 「キャー」 小さい黄色い悲鳴が口々からこぼれる。 ステージに照明がつくと同時にドラムのカウントが聞こえ、心の準備するまもなく黒幕が開けられ曲がスタートする。 激しいロックサウンドに心臓が飛び跳ねる。 ステージのセンターでボーカルが高らかに歌い上げる。 彼の声に吸い込まれる。 心臓を掴まれる。 目が離せなくなる。 〝すごい…〟 3曲ほど終わった後、MCの時間になった。 「…いいね。」 フロアを見渡し一言。 「SEないのもありだね。さすがの適応力。いきなりよくあの振りできたな。お前らカッコイイわ。」 最初の曲はバンド初期のイントロに振りのある曲。 最近のライブではしていない、古の曲。 「開演ギリギリまで練習してたもん、この人。」 「幕落ちるまでやってた。」 ボーカルとベーシストが軽快にトークをしていて、ファンからは笑い声が聞こえる。
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