⒉ 花浅葱の芽吹

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「なんで、知っている…」 わなわなと気が動転しかけている。 「お家デートしてるの知ってるし。きれーいな子だった。」 腕組みをして「おじさんびっくり」とふざけて言って見せる。 「…でーと……」 ショックのあまりそのまま机に突っ伏してしまう。 何の話か分からない小夜子は、京と楽しそうな花音と冠城の顔を交互に見る。 そして、しばらく考えて「ああ」と腑に落ちるものがあったのか 「…京さん、圭さんに振られたんですか。」 と、痛いものを見るように京に「ドンマイです」と慰めの刃を突き立てた。 「ふられてないもん…」 泣きそうな声で反論する。 確かに、振られてはいない。 何故ならば、まだスタートラインにも立っていないから。 しかし、スタートする前に負けてしまった。 「失恋と言うんだ。で、相手は?」 失恋という言葉により一層ショックが刺さる。 そんな、京は置いておいて冠城は花音に話しを振る。 「顔見ただけだから、何ともいえないけど。俺の個人的見解ね」 歳は若く、おそらく大学生。 細身で高身長のイケメン。とにかくイケメン。 あの圭が家に入れるくらいだから、かなり気に入っている。 「王子様風のサタン様みたいな。Sっ気ありそう。」 あくまで花音の意見です。 小夜子はたい焼きにかぶりつきながら楽しそうに聞いているが、冠城の顔は楽しそうではない。 「…聞いてない。」 「プライベートだろ、どこまで干渉する気だ。」 「………釘差しに来たってわけか。」 冠城と花音がピリピリしてきた。 「忘れないでもらいたいな。嫌なことされたら辞めるって事。」 花音が帰ったあと、冠城は上司の緒方漣(おがたれん)に報告していた。 「ふーん。圭に男が……赤飯炊かないと。」 緒方漣は京の実兄である。 そしてclown(クラウン)のボーカル(ゆい)こと森唯人(もりゆいと)と恋愛関係にあり、パートナーシップ制度を利用している。 clownをスカウトしてきた張本人であり、clownを育ててきたといっても過言ではない。 clownを人一倍大切に思っており、メンバー個々人を尊重していきたいと考えている。
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