op. 薄い桃色

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「お待たせしました。」 トレーにコーヒーとサンドイッチを1人前のせて、角の席に座る彼女に持って行く。 眉間にシワをかすかに寄せて彼女は充哉一瞥した。 「お連れ様がいらっしゃったら、お持ちします。」 にこっとエンジェルスマイルでまっすぐに彼女を見つめ、きょとんとして彼女も充哉を見つめる。 ゛かわいいかわいいかわいい。抱きしめたい。キスしたい。抱きたい。” 何の時間なのだろう。しばらく見つめ合ってしまっている。 カウンターから基の咳払いを合図に、充哉が会釈して立ち去った。 いつの間にか先客の3人組は退店していた。 「こわいよ?充哉さん、ちょっとコワイ。」 客席側を背にして、小さい声でもの申す義弟。 「え?気の利く接客じゃね?」 「違う、そこじゃない。」 「は?どこよ?」 ボソボソと兄弟喧嘩しているころ、彼女はコーヒーを飲みながら電話に出ていた。 「ん?うん、そう。」 言葉数はあまり多くなく、時々見せる微笑みを見ては「かわいい…」と充哉がつぶやく。 「んー。今日。1週間くらいで帰国する予定。」 途端に充哉の表情がかたまる。 「中国と、どこだっけ?インドネシア?タイ?」 みるみるうちに充哉の顔色が悪くなる。 基が充哉を制止するより先に充哉は行動に移していた。 電話を切った彼女のテーブルに行き、ちょこんとしゃがみ込む。 ゛うわ、話しを盗み聞いたうえの不審行動!ミツーーーーー!!!カムバッーーーク!!!” とは言えず、基はハラハラしながら見守ることしかできない。 「あの…?」 訝しそうに恐る恐る声をかける。 「出張ですか?しばらく、いらっしゃらないんですか?」 きゅるきゅる~んと効果音が聞こえそうなキラキラした潤んだ瞳で見上げる。 「………え?」 困っている、戸惑っている、困惑している。 「1週間も日本にいないんですか?」
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