op. 薄い桃色

5/9

291人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
きれいな顔をした男の子に急に上目遣いで話しかけられ、返答に困っている。 何度となく通った店で、お互いに顔見知りではある。話しなんてしたことはないのだが。 「お仕事ですかいつ帰ってくるんですか」 もう一度同じ質問を投げかける。キラッキラした瞳で。 「うん…しごと…」 若干引き気味なのがわかるカタコト。 「1週間?」 「うん…」 「海外?」 「うん…」 「ひとりで?」 「ううん…」 「会社の人と?」 「うん」 一問一答方式になっている。 だが次第と彼女の緊張や不信感が薄れていったのか、表情が柔らかくなってきた。 「そっかー……さみしい」 捨て犬のような顔でつぶやく。 少し目を見開いた後、ふふっと笑った。 「さみしいんだ」 口元を手で隠してクツクツと笑っている。 ゛えーー。ちょーかわいいんですけどーーー″ 口から飛び出しそうになった言葉を手で押し止める。 たくさんではないけれど、言葉を交わしてより自覚する。 困った顔、戸惑った顔、訝しんでいる顔、そしてはにかんだような微笑み。 口元に添えられた手。 すべてにおいて可愛さしかない。 愛おしい。 好きだ。 「いらっしゃーせー」 居酒屋か!?と言うくらい元気な基の声に充哉はハッとして立ち上がる。 「圭、悪い。遅くなった。」 ショートヘアのキャリアウーマン風な女性が早足ではいってきた。 「おはよ。」 片手をあげて女性を迎える。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加