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闇の中に一つの小さな光がゆっくりと落ちてくる。
その光は小さいながらも強く、床に近づけば近づくほど輝きを増した。
その光を、長く細い指が優しく包み込むように受け止める。
「今日は“良い夢”が多いみたいだな」
眩い光に瞳を細め笑みを浮かべた赤髪で碧眼の青年、ムトが言った。
本棚で囲まれた部屋は、夢想管理倉庫。
人々の心から落ちてくる夢を拾い、保管していく場所。
書庫のような場所だが、本には夢が収められている。
ムトは落ちてきた光を右手に持ち、左手で背表紙が白い本を取った。
その本は表紙にも何も書かれていないものだった。
何も書かれていない本を開き、右手に持っていた光を本に落とす。
すると、光は本に溶け込むかのように消え去った。
次の瞬間、ページが勢いよくめくられていき本は閉じた。
表紙は鮮やかになり、そこには“リラの夢”と書かれていた。
ムトは本を手にすると読み始める。
「リラちゃんは家族とピクニックをする夢を見たのか~」
いいなぁと羨ましそうに頬を緩めながら本を閉じた。
閉じた本を元の場所に戻し、ムトは椅子に腰をかける。
作業机に向かい、片隅にある羽ペンを手に取り考え込む仕草をした。
そして、何かを思いついたのか引き出しから1枚の紙を出した。
「もう落ちてこないと信じて、日記でも書こうかな」
そう言って羽ペンを流れるように動かしていくムト。
ムトは夢想管理倉庫の管理者である。
人々の落とした夢を拾うために生まれた存在。
そのため、夢を見ることはない。
その上、夢想管理倉庫から出ることはできない。
しかし、ムトはこの生活に満足していた。
人々の夢を自分が実際に経験したように、ムトは楽しんでいた。
しかし、この仕事は楽しいことばかりではないこともまた事実であった。
ムトは今日落ちてきた夢について日記を書いていると、ふと羽ペンを持っていた手を止める。
ムトが上を見ると、赤い光が落ちてくる。
「このタイミングで落ちてくるのかぁ」
ムトは深刻な顔をすると羽ペンを机に置き、光を受け止める。
空いている手で、先程とは違う黒い本を手に取った。
その本を部屋の中央に置き、ゆっくりと光を落とした。
すると、開かれた本から禍々しい漆黒の扉が出現する。
「きっと今日最後のお仕事だ!張り切って行こー!」
自分に自分で渇を入れると、大きな音を立てながら開いた扉の奥へと向かった。
ムトの仕事は夢の管理。
“良い夢”を拾い保管すること。
そして、もう一つの仕事は“悪夢”を人々から断ち“良い夢”に変化させること。
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