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俺は慎重にパンの匂いを嗅ぐと、美弥が背を向けているのを確認してから、ひとくち齧り付く。
(あ、うま……)
俺は気づけば夢中で食パンを食べていた。
久しぶりのゴミも埃もついてない綺麗なパンだった。
(ふぅ、美味かった)
俺は満足して口元の髭を手で擦る。
その時、視線を感じて顔を上げると美弥が雨でずぶ濡れになりながら、俺を見てにっこり微笑んでいた。
「良かった。また明日も23時にくるから、良かったら待ってて」
(え……っ)
そう言うと美弥は俺の返事も聞かずに足早に立ち去った。
「なんだよ、どうせもう来ないくせに」
俺はそう呟きながらも美弥が置いて行ってカーディガンに丸くなる。
いつも岩肌や草むらの上だったからだろうか。
(気持ちいいな……)
俺はあたたかくて優しい匂いのするカーディガンに鼻先を埋めると、そのまま朝までぐっすり眠ってしまった。
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