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拓人がよっぽど変な表情をしていたのか、桃華はシュンと肩を落とす。
「そんなわけねえだろ? 俺も、嬉しいよ」
少しはにかんでそう伝えると、拓人は桃華を安心させるように唇を重ねた。
けれど途端にそんな自分の行動に下心があるようにさえ感じられた。
拓人は静かに一度深呼吸をすると、車を発進させた。
自宅に到着し、桃華を拓人の部屋に通す。
「拓人の家っていつ来ても広いね~」
「そうか? まあ、俺のじいちゃんが資産家で、この辺りの地主だったらしいからな」
部屋の隅に荷物を置く桃華に、拓人がこたえる。
「とりあえず風呂にするよな?」
「うん」
桃華は鞄のそばに座ると、中からパジャマやポーチ、歯ブラシのセットを取り出す。
決して桃華が何か特別なことをしているわけではないけれど、どことなく非日常な光景に思えて、異様にドキドキとした気持ちになった。
「じゃあ俺、風呂入れてくるな」
「え……? う、うん」
何となくこのままこの場に居ると自分を保てなくなるような気がして、拓人は足早に自分の部屋から出た。
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