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透き通るような夏の青空に、飛行機雲が模様を描く。
車の運転席に座る拓人は、ぼんやりと上空を進む飛行機を目で追っていた。
地上に視線を落とすと、病院の玄関を出入りするまばらな人が見える。
梅雨明けして間もない暑さの中、太陽がアスファルトをあまりに強く照らし付けるからだろう。メラメラと空間が揺らいで見えた。
目的の人物がなかなか見えず、時間を確認するためにポケットの中の携帯に手を伸ばしたとき、コンコンと助手席側の窓がノックされた。
拓人は窓の外の人物を見ると柔らかく微笑み、車の鍵を開け、ドアを開けた。
「ただいま~! 待たせちゃってごめんね」
可愛らしい声とともに助手席に入ってきたのは、拓人にとって何よりも愛しい女性だ。
桃色のワンピースを着た女性は白色のフワフワのボレロを羽織り、肩まで伸びた髪の頭には可愛らしいピンクのリボンのカチューシャが乗っている。ピンクのマスクで口元は隠れているものの、彼女の目元も拓人と同じような柔らかい微笑みが浮かんでいた。
「お帰り桃華。全然待ってねえから、気にするな」
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