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落ちて来た世界はキラキラとして綺麗だった。私を掴んで離さない強さがあった。こんなに世界が広いってことを久しぶりに知った。そういえば信号は青じゃなくて緑だったっけ。雨上がりのアスファルトってこんなに光るんだ。どこかのキッチンから聞こえてくる料理の音は明日の誰かの朝ごはんかな。千花に手を引かれて走る街並みは住んでる街なのにも関わらず全てが真新しいもののように思えた。
そして、浮かれていた私たちは、お巡りさんに声をかけられるまで小さな逃避行を続けた。声掛けだけで済んだ帰り道。それすらもおかしくって、笑いながら話した。
「補導のこと忘れてたね」
「声掛けられただけで良かったよ、ウチやばいかと思った〜」
千花も同じように考え事を抱えていた。その事実だけで眠たくなるような安心が私を襲う。あれだけ比べていたのに、千花も同じなのだと分かってしまえば解決までの道のりは短かった。いくらひねくれていたって、友人の悩みに付き合わないほど馬鹿じゃない。
「ねえ千花」
「ん〜?」
「千花の悩みとか、聞くから」
「……ん、サンキュ」
すっかり冷えたお互いの手を握り合い、先に着いた千花の家まで歩いた。
「今までずっと比べてた。千花は外の世界があるからって。でもその世界で悩んでるって知って、少し安心した。ごめん。けど、私話聞くから。いっぱいいっぱい聞くから。だから」
「うん。サンキュ。大丈夫、大丈夫ってば。ありがとね、七湖」
音が鳴らないようにゆっくり閉めたドアは寂しさを倍増させた。ブー、ブー、と鳴るスマホの画面には『おやすみ』の文字が。どこまでも私のことを知っている千花が、私が寂しくならないようにと送ってくれたメッセージ。それを大切に抱えたまま私も帰路についた。
時折吹く風が少し冷たく、考え事をするには持ってこいだった。久しぶりに歩く外の景色を物珍しそうに見つめながら、落ちて来た世界の重力に逆らって歩いた。
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