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とりあえず私は池の周りを歩いてみることにした。
特におかしな場所はなかった。慰霊碑のような物もないし、何か寒気がして不気味に感じることもなかった。
元の場所に戻ってきた。ちょうど池の周りを一周するのに二十分ほどかかった。
「すいません」
突然、背後から声をかけられた。女の子の声だった。赤い三輪車に乗った女の子の姿が脳裏に浮かぶ。
私は恐る恐る後ろを振り返ってみた。
すると中学生くらいの女の子と、そして男の子が立っていた。
「写真撮ってもらってもいいですか?」
私は安堵のため息をついた。カップルが遊びに来ていて、記念に写真を撮ってほしいだけだった。
私はカメラを受け取り、池をバックにして並んで立つ二人をファインダーから覗き見た。そして合図を出してシャッターを押した。
その時だった。
何か赤色の物が二人の後ろを素早く通り過ぎたように見えた。
私はあわててカメラを離し周りを確かめた。それらしき物は何もない。
とりあえず私は二人にカメラを返した。さっそくその二人は画像を確認している。
私は固唾をのんで見守った。何か、やばい物が写りこんでいないかと。せっかくのデートの記念写真が心霊写真になればショックを受けるだろう。
しかし何も写りこんでいなかったようだ。二人は明るい様子でお礼を言って立ち去った。
気のせいか。
私はそう思うことにした。
食堂で軽い食事をしたり、もう一度、池の周りを歩いたりしているうちに、あたりは薄暗くなってきた。出来れば夜までここにいたいのだが、明かりのない山道を歩いて帰らなければいけなくなるのでそろそろ引き上げる時だった。
特に何も起こらなかったがこれだけ美しい池を見れただけでも来た甲斐があった。いい思い出がひとつ増えた。また機会があれば訪れてみたいと思った。
私がくろんど池に背を向けて歩き出した時、三台のバイクが走り去って行った。ツーリングの途中で立ち寄ったのだろう。これだけ美しい池なら誰だって立ち止まって見たくなる。それだけ魅力的な場所だ。
しかし、何かがおかしい。
走り去るバイクを見ながら私は異変を感じた。先頭を走るバイク、それに続く二台目のバイクは何の変哲もないバイクだが、一番後ろを走る三台目のバイクがやけに小さい。バイクも乗っている人間も。
それは赤い三輪車だった。
小さな女の子が赤い三輪車をこいでいる。まるで前を走るバイクを追いかけるかのようにあり得ないくらいの猛スピードで。
ーおわりー
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