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「翔くん、お願い、私の話も聞いて」
「う、うん。何?」
俺は、くすくす笑う柚子がかわいくて、ドキドキが止まらなくて……
相手が柚子だから?
なんだか、初恋のあの頃に戻ったみたいだ。
俺だってもう27だし、それなりに経験はあるはずなのに、柚子の前だとそんなの全部なくなるみたいに感じる。
「あのね、私、私もね、東京に住んでるの」
「……ええ!?」
嘘っ!?
だって、そんなこと、一言も……
「明後日、私も新幹線、自由席のチケット持ってるの。一緒に帰らない?」
俺はもう、言葉も出なくて、ただ、何度も頷くしかなかった。
……が、
「ゆずたん、おちっこ。」
まなちゃんの一言で、俺たちは一瞬で現実に引き戻される。
「えっと、トイレは……」
柚子がキョロキョロとトイレを探す。
俺は、素早くまなちゃんを抱き上げ、柚子の手を取った。
「こっち!」
左手にまなちゃんを抱き、右手で柚子の手を握って、俺は人混みを抜けて走る。
トイレに向かって。
ふぅぅぅ
間に合った。
俺は女子トイレの前でまなちゃんを柚子に任せて、二人を待った。
俺、何してるんだろう。
でも、ま、いっか。
あと何年か後に、また同じようなことがあるかもしれない。
今度は、俺たちの子供と。
今日は、その予行練習だな。
俺は、二人が来るまでの間、一人、にやにやと幸せな妄想に耽るのだった。
─── Fin. ───
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