恋はポテトと一緒に落ちてくる[改稿版]

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あ、あの子と一緒だ! 小学6年生の1学期始業式の朝、俺は昇降口に張り出されたクラス名簿を見て、わくわくした。 そこには、俺、藤川 翔(ふじかわ しょう)の名前の2つ下に、岬 柚子(みさき ゆず)の名前がある。 あれは5年生の3学期の終わり、学年でお楽しみ会をしてた時だった。 俺は増やし鬼の最中、最後の1人になって必死に逃げてる時に派手に転んだ。 俺が保健室への付き添いを断って、外の水道で擦りむいたところを洗い、ハンカチで濡れた足を拭こうとしたら、後ろで 「あ……」 と小さな声がした。 振り返ると、隣のクラスの女子がポケットを探ってる。 確か、柚子(ゆず)っていったかな? いつもおとなしくてあまり目立たない子。 「はい」 彼女が差し出したのは、かわいいキャラクターの付いたティッシュペーパー。 「え、いいよ。大丈夫」 そんなかわいいやつで俺の汚れた足を拭くのはもったいない。 どこかの粗品でもらった白いティッシュなら遠慮なくもらえるけど。 けれど…… 「ハンカチに血がついたら落ちないから」 確かに足を洗っては見たものの、全力で走ってて派手に転んだせいで、まだ血は止まっていない。 彼女は、ティッシュを2枚取り出して俺に差し出した。 「いや、でも……」 俺がその手元を見て、どう断ろうか考えていると、彼女は無言で俺の足にそのティッシュを当てた。 足から出た血がティッシュを染めていく。 「痛そう」 囁くようなその声と、優しく傷口に触れるその手に、俺はなぜかドキドキが止まらなくなった。 足を拭いてもらうと、俺は彼女の付き添いを断ることなく、保健室に向かう。 けれど、当然のことながら、養護教諭の先生に引き渡したところで彼女はお楽しみ会に戻っていってしまった。 あの子、優しいんだな。 普段、彼女は外遊びにはあまり加わらないから、初めて話した。
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