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あれから、15年。
俺は今、地元を離れ、東京で働いている。
「おい、タケ、電話鳴ってない?」
俺は、幼馴染のタケに誘われて夏祭りに来た。
なんでも、タケは、3日前に彼女に距離を置こうと言われたらしい。
俺が盆休みで帰省中なことをSNSで見て、今朝、誘ってきた。
男二人で夏祭りってどうなんだ?とも思ったが、落ち込むタケを見るに見かねてやってきた。
「あ、マユからだ!」
タケは慌てて電話に出る。
夏祭りの雑踏がうるさいのか、タケは人混みを離れて路地に入った。
どうするかな……
離れると逸れそうだけど、揉めてる彼女との電話は聞かれたくないだろうし……
俺は、迷ったけれど、その場で、待つことにした。
待つこと3分。
タケは満面の笑みで戻ってきた。
「翔、ごめん! マユが会いたいって、やり直したいって言ってるから、俺、帰るわ。悪い、今度また埋め合わせするから」
そう言うと、タケは手を振ってあっという間に帰っていく。
まぁ、気持ちは分からないでもない。
だけど、夏祭りに男一人で残された俺の身にもなれよ。
こういう所は、浴衣姿の彼女と来てこそ、楽しいものだろ。
はぁ……
俺も帰るか……
俺が足を止めて引き返そうと、人混みの中、左に一歩踏み出した時、
ドンッ!!
という衝撃と共に、何かが降ってきた。
え? 何だ、これ!? ポテト?
俺が頭から浴びたのは、露店で売ってるフライドポテトらしい。
「あ! すみません!」
ぶつかってきたのは、紺色の浴衣を着た女性。
女性は、ぺこりと頭を下げると、手にはほとんど空になったポテトのカップを持って、そのまま走り出す。
「真菜! 待って! 走ると危ないから!!」
女性の視線の先には、朝顔の柄の浴衣を着た小さな女の子。
まぁ、あれはしょうがないな。
子供が迷子になっても困るし。
ふと見ると、地面にはポテトと一緒に、水色のかわいらしいかんざしが落ちていた。
これ、彼女の……?
俺は、かんざしを拾って、彼女を追いかける。
「あの、すみません」
俺は、綿菓子の屋台の前で彼女に追いつき、声を掛けた。
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