92人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、柚子が幸せそうで良かった。今日、旦那は? どんな人?」
俺は、キョロキョロと周囲を見回すが、周りには誰もそれらしい人はいない。
「え、あの、それが……」
話すのが苦手な柚子が言葉を探してるのはすぐに分かった。
あの頃と全然変わってない。
「え、もしかして、訳あり?」
あ、悪いこと聞いたな。
「え、その、訳ありとかじゃなくて、旦那さんはいないから」
え? まじか!?
俺は焦った。
「あ、ごめん。まさか、シングルマザーだとは思わなくて」
そりゃ、言いづらいよな。
「じゃあ、柚子、また会えない? 俺、こんなかわいい柚子の子なら、子連れデートでも全然構わないよ」
柚子そっくりな柚子の子だし。
俺が1人でうんうんとうなずきながら話していると、柚子が口を開く。
「いや、そうじゃなくて……」
が、それを遮るようにかわいらしい声が聞こえた。
「ゆずたん、あんぱんま、かって」
女の子が、柚子の手を引いた。
か、かわいい!
「よし! お兄さんが買ってやる。
どれが欲しいんだ?」
俺はしゃがんで女の子の目線で尋ねる。
「まなたんね、あんぱんま、ほちいの。」
女の子は、綿菓子屋にぶら下がった人気キャラクターの袋を指差した。
「まな!! ごめん、大丈夫だから。ありがとう」
柚子は慌てて女の子の手を引く。
そして、柚子は、周りを見渡しながら聞いた。
「翔くんは、今日、ひとりなの?」
「ああ。さっきまで、タケといたんだけど、タケ、彼女に呼び出されて帰っちゃってさ。そうだ! 柚子、一緒に回ろうぜ」
これを逃したら、もう柚子には会えないかもしれない。
俺、普段は東京だし。
「あの、でも、真菜がいるから……」
あ、そうか。
子供の前で口説かれても迷惑だよな。
「大丈夫。友達としてでいいから。な? いいだろ?」
俺が柚子の目を覗き込むと、柚子は恥ずかしそうに伏し目がちにうなずく。
「う、うん」
相変わらず、柚子は推しに弱いなぁ。
「やった! まなちゃんだったよね。ピンクと水色、どっちがいい?」
俺は綿菓子屋の屋台にぶら下がった袋を指差して尋ねる。
「ピンク!」
俺は、屋台のおじさんに金を払って、ピンクの袋をまなちゃんに手渡した。
最初のコメントを投稿しよう!