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静かに打ち寄せる波の音。
天使は身体を起こす。
「ここは……」
落とされたのは覚えている。
翼が焼ける痛みと、地上に落ちる恐怖で気を失ったのだろう。
纏っていた純白の薄布はじっとりと濡れている。
「あなたが僕を助けてくれたのですか……?」
「きゅう」
海から上半身だけを出した彼女は、にこにこと笑って鳴き声を上げた。
「ありがとうございます。僕は、天使なのですが、翼を焼かれてしまって……天界には戻れないので、少しの間ここに居てもいいですか?」
「きゅう! きゅ?」
「ええ、そう。堕ちてしまったんです。赦されぬ恋をしたものですから……」
傷ついたように天使は微笑んだ。
彼女はますます心配そうに眉をひそめて、きゅうきゅうと鳴きながら天使の手を取り、彼の真っ白な長い髪をいたわるように撫でた。
「ふふ、ありがとう。でも悪いのは僕なんです。あ、そうだ、人魚さん。よかったら……」
そのとき、人魚の視線が海の遠くに吸い寄せられた。
天使は振り返る。島からは遠く離れて、微かに大陸が見える。
目のいい天使は、彼女が砂浜にいる青年を見つめているのだとすぐにわかった。
やわらかな金色の髪。シルクの洋服が汚れるのもかまわず砂浜に座り込んで、青い瞳で夜の海を眺めている。崖の上には小さなお城があった。
そっと盗み見た人魚の横顔は切なげだった。
王子様がお城に戻ってしまうと、彼女はとたんにしゅんとした顔になる。
「人魚さん。よかったら、僕がお手伝いしましょうか」
「きゅう?」
「天使に戻るためには、誰かを幸せにしないといけないんです。もちろん、そのためだけじゃなくて、人魚さんに恩返しがしたい。三つまでなら願いを叶えることができるんですよ」
「きゅうきゅう!」
人魚の瞳が輝いた。
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