堕ちた天使と人魚姫

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 人魚を幸せにしたことで、溶け焦げていた翼は白く、()え変わった。  王子様の身体を砂浜に横たえて、天使は考えていた。  天界に戻っても、僕の居場所はない。愛するあのひととは永遠に会うことを許されず、天使たちには冷たい目で見られるだろう。  自由なこの世界にずっと憧れていた天使は、王子様の(そば)に膝をついた。  やわらかな金色の髪。今は閉じられた青い瞳。  はじめて見たときにも思ったが、あのひとによく似ている。  天使は、人間に恋をしたのではなかった。  どうして天使にまで性別があるのだろう。  性別さえなければ、僕もあの人魚のように、愛するひとと幸せになれたのに。  天使はふっと空気を吸い込んだ。  冷たくなった王子様の唇に、命を吹き込む。  死人(しびと)に命を与えるという最大の禁忌を犯して、天使の白い翼は黒に染まってゆく。美しかった純白の髪も、瞳も、黒に堕ちてゆく。  王子様が、目を覚ます。  緑豊かな、楽園のようなその島で。  悪魔と王子様は、恋に落ちた。
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