彼女の・・・。

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「ある秋の日曜の昼下がり、私はお気に入りのカフェでカフェラテを飲みながら、大好きな恋愛小説を読んでいた。 今日は天気がいいなぁ、と左手の窓の外を見ていると右手の甲に雫が落ちてきた。・・・6~7滴は落ちて来ただろうか。 「あ、ごめんなさい」 若い女性の涙声が聞こえた。そうか、彼女の涙だったんだ。 「彼と別れたところだったんです」 私よりもずっと小柄の彼女は、か細い声でつぶやいた。私に伝えた、と言うより自分に言い聞かせたかのように。 「座りませんか?ここのアップルタルト、絶品なんですよ」 私は思わず言っていた。アップルタルトを2つオーダーして。 「いいんですか?ありがとうございます」 「彼とは長いお付き合いだったんですか?」 「はい・・・5年でした。軽蔑されちゃうかもしれないけど、奥さんのいる人でした」 不倫・・・確かに道ならぬ恋だけど。 「軽蔑なんてしませんよ。人を好きになるのに理屈なんてありませんからね。・・・本当に『終わった』んですよね?」 「はい」 「よかったです。恋に理屈はないけど、幸せになれる恋とそうでないのがありますからね」 「幸せになれると思ってました、最初は。愛してる、って何度も言ってくれたし、奥さんとは冷めてると、別れると。それで何だかんだで5年も。バカですよね」 彼女は、遠い目をした。 「でも、昨日、見ちゃったんです、奥さんと仲睦まじく手をつないで歩く姿を。2人の可愛らしい娘さんたちを可愛がる姿を。もう駄目だ、と思いました。結局、私は愛されていなかったんですよね」
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