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二十分ほど歩き、二人が辿り着いたのは彼らの仕事場である工場だった。
敷地はかなり広く、かなりの規模の工場が四つほど並んでいる。
警備員に声をかけ、二人は第二工場へと向かった。
工場内に入ると、二人の上司である山岸哲郎がいた。
彼は二人を見るなりぶっきらぼうに手を上げる、口は悪く顔もいかついがそこまで悪い人間ではない。
「おはようございます」
「おう、おはようさん」
哲郎は何やら作業員の服装をチェックしているらしく、汚れがひどい作業着を着た作業員たちを注意し、綺麗な物と取り換えるように指示していた。
「どうかしたんですか? やけに服装に厳しいみたいですけど」
「さっき上から連絡があってな、軍の連中が今日ここに視察に来るんだとよ。それでみっともねえ服で仕事するのは見栄えが悪いってんで、今日はなるべく綺麗な服を着て仕事しろとさ」
「へえ……なんだかめんどうですね」
「めんどくせえが仕方ねえ。上の指示を黙って聞かなきゃ飯は食えねえし、食わせらんねえからな。おら、お前らもさっさと着替えて持ち場に行け」
二人はなるべく綺麗な作業着に着替えると、いつものように持ち場へ付く。
やがてチャイムが鳴り、仕事が始まった。
二人の仕事は軍需製品の組み立て、十三の時から今の工程を任されて五年になる。
会話をしながらでも作業ができるくらいには、仕事に慣れてきていた。
「なあ、軍の連中なんでわざわざこんなとこに来るんだろうな。あいつら暇なのかね?」
「暇って事は無いだろうけど……」
真一の隣で作業する和弘はそんな事を言いながら、ボルトを手早く締めていく。
働いている年数は同じだが、真一よりも彼の方が仕事が早い。加えて人当たりもいいため、周囲の人間にも好かれている。
そういう生きる事に対する一種の器用さのようなものは、真一も素直に尊敬していた。
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