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仕事が始まってから二時間、十分ほど休憩を挟み仕事が再び始まる。
昼休憩まであと三十分、といった所で近くの工程を担当している知り合いが二人の所へやってきた。
「どうしたんですか?」
「さっき別工場の奴から連絡が来てな、軍の連中がここの近くを通るらしい。いつも通りに仕事してれば問題は無いと思うが……とりあえずその事だけ伝えにきたんだ」
彼はそれだけ言うと、自分の持ち場へ急いで戻っていった。
「うげ、昼飯まで三十分しかねーじゃん。来るならさっさと来て、さっさと帰ってくれよな」
「あんまそういう事は口に出すなよ、聞かれたら面倒だからな」
「へいへい、分かってるって」
そこから五分ほどして、軍の人間はやってきた。
黒い軍服に身を包んだ彼らは、丸々と太った豚のような工場長に工場内を案内されていた。
ちらりと真一がそちらに目をやると、先頭を歩く背の小さい男はなにやら工場長に嫌味を言っているらしく、嫌な笑みを浮かべながら忙しく口を動かしている。
だがそれと対照的に後ろにいる背の高い男は、何も言わずそれどころか表情すら動かしていないように見える。
ただ暗く、冷めきったような目で周囲を見回していた。
三人は、やがて真一たちの近くの通路へやってきた。
「お? ずいぶん若え奴が働いてんな。おい工場! 品質の方は大丈夫か?」
背の小さい男は真一たちを見るなり、耳障りな声で嫌味を言う。
「ああ……あの二人はもう五年も働いておりますし、万が一が無いように品質チェックも厳しくしておりますので……」
「ほんとに頼むぜ? こっちは戦えないお前らのために命かけてやってんだ、いざって時に不良品でしたじゃ困っからよぉ!」
背の低い男はそう言ってゲラゲラと笑う、同じ人間かと疑いたくなるような品性の無さだ。
「んだよ……あいつ、うっぜえな……」
「おい、やめとけって。気持ちは分かるけど、揉めた分だけ損するぞ」
「ちっ……分かってるよ」
口ではそう言うが、和弘がかなりキレているという事に真一は気付いている。
いつ立ち上がって掴みかかりにいくか、内心ヒヤヒヤしていた。
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