第一話 終わりかけの世界

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 男は面倒くさそうに頭を掻き、はぁと大きく息を吐いた。 「うるせえなぁ……だから何だってんだよ」 「なに?」 「こっちは命かけてお前らを守ってやってんだよ、少し床に転げたぐらいでギャーギャー騒ぐんじゃねえよ」 「てめえ!」    和弘が軍人の胸倉に掴みかかった次の瞬間、男は彼を殴り飛ばした。  吹き飛ばされた和弘は、近くにあったゴミ箱にぶつかり中身をまき散らした。 「くそ……!」  和弘は唇を切ったらしく、口の端から血が流れている。 「だからお前ら軍人は嫌いなんだ! 横暴で、自分勝手で! 偉いからってやっていい事と悪い事があるだろうが!」 「何もできないガキが偉そうな口をきくな! お前はあいつらと戦ってねえからそんな口がきけるんだ、軍に入ってあいつらの姿を見れば嫌でも分かる。俺たちがどれだけ命かけてるかってな!」 「知るか! 謝れ、あの人に謝れよ!」  男はその言葉で頂点を迎えたらしい、胸元から拳銃を取り出し和弘に向けた。 「クソガキが……ここで殺されてえか!」 「おい……それ以上はやめておけ。子供相手にそこまですることはないだろう」 「うるせえ!」  背の高い軍人の言葉を一蹴し、男は和弘を睨みつけた。 「土下座して謝れば許してやる、しなければ……分かるよな?」 「クソ野郎が……」  和弘は仮にここで撃たれたとしても、頭を下げるつもりはなかった。  そう決めていた彼の覚悟は、隣で土下座した友人の姿によって揺らいだ。 「真一……!?」 「すいませんでした」 「誰だお前?」 「こいつの友人です、こいつは良い奴ですが感情的になる事が多いんです。友人として、同じ職場の人間として代わって謝罪します。どうかこれで許してください」 「へえ……ずいぶん物分かりの良い友達がいるじゃねえか。それでお前はどうすんだ? 友達に頭下げさせて、自分は意地を通すのか?」 「ぐっ……」  和弘は奥歯が砕けるかと思うほど歯を食いしばりながら、真一と並んで頭を下げた。
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