終末世界に花が落ちてきた

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世界には人間と共に生きるためにプログラミングされたロボットが残された。 しばらくは人間がいたときと変わらない暮らしを続けていたが、やがて1体、また1体と、世界を維持するために必要と定義されていた行動をやめていった。 食品、服飾品などの生産は停止し、建築物の維持・建設は行われなくなった。 次いで、新しいパーツやバッテリーの生産も停止し、人間に続いてロボットも絶滅へと向かっていた。 駅前のロータリーだった場所に、ロボットだった物がいくつも転がっている。 雨風にさらされた金属は、どこかから飛んできた種が芽吹き、緑に覆われつつある。 パートナーである人間がいなくなってからは、部屋にこもって、リアルの身体を必要としない仮想現実に入り浸っていたロボットたちだが、身体の機能停止が近づくと、なぜかリアルの世界で外に出たがった。 かく言う僕も身体が壊れ始め、あと数日から数ヵ月で機能停止すると理解してからは、ほとんど仮想現実にインすることなく歩き回っていた。 パートナーだったあの人との思い出のメモリーを再生しては、その場所へと歩いた。 ベンチに座って駅を眺めていると、あの人と一緒に見た景色と崩れかけた今の景色が重なって見えるようだった。 バサッ 頭部に衝撃があり、両目のカメラの画角が黄色と緑でいっぱいになる。 上から何かが落ちてきて頭部を覆ったようだ。 嗅覚センサーが青い匂いを感知した。 「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」 落ちてきたものを手に取ってみれば、それは、ひまわりの花束だった。 ひまわり畑で適当に十数本のひまわりを切って束ねただけといった感じの不格好な花束だ。 見上げると、僕が座っているベンチの背後にある歩道橋の欄干から身を乗り出しているロボットがいた。 長い髪を風になびかせ、さわやかな白い服を着た、人間にしか思えないロボットだった。この時代には珍しく、腕も顔も破損していないようだ。 「おーい。まだ動いていますか?」 白い服のロボットが僕に向かって手を振っているが、人間にしか思えないロボットを久しぶりに見たため、反応の選択が遅れてフリーズしてしまった。 再起動して、「……まだ完全には機能停止していない」と返事をする。 白い服のロボットは、「あら。そっちに行きますね」と言って、乗り出していた身体を引っ込めてこちらに走り下りてきて、目の前に立った。 長い髪が整った顔にかかり、その目が僕の脚の辺りにとどまる。 「ああ、この脚は過度な使用による破損だ。知っての通り、もう修理できないからここで電源が切れるまでのんびりしている」 「そうですか。お隣、失礼しますね」 視線に気づいて答えた僕の横に、白い服のロボットが座った。 僕の頭に落ちてきた、ひまわりの花束を返す。 「ありがとうございます。あの駅、一度来たことがあって、懐かしいと思って見ていたら落としちゃって。この先で私のパートナーが眠っているので、あの人が好きだったこの花を飾ろうと思っているんです」 隣に座った白い服のロボットは、ひまわりの花束を整えながらそう言った。
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